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外資等による水源地周辺の土地取得と制度的対応の整理

公開 2026-05-19 · 最終更新 2026-07-25 · 一般財団法人 地球防衛群

記事の内容まとめ

「外国の会社が日本の山や水源地の土地を買っている」というニュースを聞いたことがあるかもしれません。林野庁の調査によると、2006年からの累計で約10,400ヘクタール(東京都の面積の約5%)の森林が外国法人等によって取得されています。

現在の法律では、森林を買った後に届け出る制度(森林法)はありますが、水源地・森林の取得一般について購入前に行政が許可・不許可を判断する全国一律の仕組みは設けられていません。北海道など一部の自治体は独自に「買う前に届け出てください」という条例をつくっていますが、届出を受けても取引自体を止める権限はないのが現状です。

この記事では、実際にどれくらいの土地が取得されているのか、国や自治体にはどんな制度があるのか、何が課題として議論されているのかを、公開資料に基づいて整理しています。


1. はじめに

外国法人等による日本国内の森林・水源地周辺の土地取得については、農林水産省(林野庁)が2010年以降、毎年調査を実施し結果を公表している1。本稿は、当該調査の公表データと国・自治体の制度的対応に関する公開資料を基に、現状を整理するものである。個別事案の評価や特定主体への帰責は行わない。

2. 土地取得の実態

林野庁の調査における「外国法人等」とは、①居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者、および②国内の外資系企業(外国法人の子会社等)の双方を含む分類であり2、以下の数値もこの定義に基づく。

林野庁の最新公表(令和7年9月16日)によれば、令和6年(2024年)中に外国法人等により取得された森林面積は382ha(うち居住地が海外にある外国法人・外国人によるもの48件・171ha、国内の外資系企業によるもの37件・211ha)で、全国の私有林面積に占める割合は0.003%とされている2。平成18年(2006年)から令和6年までの累計は10,396ha、私有林面積の0.07%にあたると公表されている2

地域別では北海道での取得が大半を占める傾向が継続しており、令和6年も道内では居住地が海外にある外国法人・外国人によるもの及び国内の外資系企業によるものを合わせて36件・162haが計上されている2。次いで岩手県、栃木県、長野県、大分県などで個別の事例が報告されている2

利用目的の届出内訳をみると、「資産保有」とされるものが件数ベースで最も多く、「現況利用」「住宅建築」「太陽光発電」「別荘購入」等が続いている2。林野庁は「外国法人等が取得した森林において、取水や地下水の採取を目的とした開発等の事例はこれまで報告されていない」としているが、届出書の記載のみでは目的を確認しきれない事例も含まれることが調査の性格上の留保とされている2

3. 制度的対応の整理

3.1 国の制度

森林法:森林の土地の所有者となった者には、面積にかかわらず市町村長への事後届出が義務付けられている(森林法10条の7の2、平成23年改正による)3。届出制であり、取得そのものを許可制で抑止する仕組みは置かれていない。林野庁の調査も、本届出情報および国土利用計画法・不動産登記法に基づく情報を組み合わせて行われている2

重要土地等調査法(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律、令和3年公布・令和4年9月全面施行):注視区域・特別注視区域を指定し、当該区域内の土地等の利用状況を調査し、機能阻害行為を中止勧告・命令の対象とする仕組みである4指定対象は防衛関係施設・海上保安庁施設・生活関連施設(原子力関係施設および一定の空港)・国境離島であり、水源地そのものは現行法の指定対象類型に含まれていない4。ただし、防衛関係施設等の周辺区域に水源涵養機能を有する森林が含まれる場合は、結果として水源地周辺が注視区域の範囲内に入る可能性がある点は留意すべきである。内閣府によれば、2024年4月までに全国583区域の指定が一巡した5。その後も区域変更の告示が行われているため、最新の区域数・区域図は内閣府「区域の指定について」ページで確認する必要がある。法案審議時の附帯決議および参議院調査室レポート(2023年12月)では、水源地や農地等の資源・国土保全上重要な区域に関する調査・規制の在り方が今後の検討課題として整理されている6

水循環基本法(平成26年公布・施行):水循環に関する施策の総合的・一体的な推進を理念として規定し、水循環政策本部の設置と水循環基本計画の策定を定めている7。土地取引そのものに対する規制権限を直接に定める性格の法律ではなく、運用面では水循環基本計画および地下水保全ガイドライン等を通じて関連施策を整理する位置づけとされている7

外国為替及び外国貿易法(外為法):外国投資家による対内直接投資等(指定業種に属する事業を営む企業の株式取得等)に係る事前届出・審査制度を有する8。ただし、外国法人等による不動産(土地)の直接取得は外為法上の「対内直接投資等」には該当しないため、水源地・森林の土地売買そのものに外為法の事前届出制が適用されるわけではない。外為法が関連し得るのは、土地を保有する国内法人の株式を外国投資家が取得する場合など、間接的な形態に限られる点に注意が必要である。

3.2 自治体条例

北海道水資源の保全に関する条例(平成24年3月公布・同年4月施行、土地取引の事前届出制は同年10月運用開始)は、知事が指定する「水資源保全地域」内で土地取引を行う場合、契約締結の3か月前までに当事者が知事に届け出ることを義務付ける条例である9。届出制であり、許可制ではない。2017年度・2022年度に施行状況の点検が行われ、悪質な無届事案への対応の迅速化を含む運用改正が報じられている10

同様の趣旨の水源地域保全条例は、北海道のほかに複数の都道府県で制定されており、地方自治研究機構の整理(令和7年10月14日時点)によれば21道府県で制定が確認されている11。条例の多くは事前届出制を採用し、罰則は過料や勧告にとどまる例が多く、届出をもって取引そのものを拒否する権限は置かれていないとされている11

4. 議論されている論点

第一に、所有権と公益のバランスをめぐる論点がある。森林・水源地の取得を許可制で制限する設計は憲法29条の保障する財産権との緊張関係を生むため、現行制度の多くが届出制にとどまっている11。第二に、「水源地」の定義の曖昧さに関する論点がある。自治体条例における「水資源保全地域」の指定範囲は条例ごとに異なり、地下水涵養機能・水道水源としての利用実態などの基準の差異が指摘されている11。第三に、事前届出制と事後届出制の選択をめぐる論点があり、森林法の事後届出制では取引成立後の把握しかできないとの整理が立法時から示されてきた6。第四に、重要土地等調査法の運用実績と今後の区域指定の在り方──とりわけ水源地等への対象拡大の是非──が継続的に議論されているとされる6

5. おわりに

外資等による森林・水源地周辺の土地取得をめぐる制度的対応は、森林法の事後届出、重要土地等調査法の特定区域指定、水循環基本法の理念規定、そして自治体条例の事前届出制という複数の層で構成されており、それぞれが対象範囲と権限の射程を異にしている。制度整備は段階的に進められているが、運用実績の蓄積と区域指定の拡張については継続中の段階にあると整理できる。

各地域でどのような対応が可能かは、その地域の条例の有無、水資源保全地域の指定状況、関連自治体の運用方針によって異なる。具体的な事案について制度上の対応を検討する場合は、まず各自治体の担当窓口や弁護士等の専門家に確認することが重要である。当財団の環境相談では、公開資料の読み方や確認先の整理など、一般的な情報整理の範囲で参考情報を提供する。


注・出典

  1. 林野庁「外国法人等による森林取得に関する調査」(平成22年以降、毎年実施・公表)。https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/gaikokushihon_shinrinbaishu/gaishibaishu_chousakekka.html(外部サイトを別タブで開く)

  2. 農林水産省プレスリリース「令和6年に外国法人等により取得された森林は全国の私有林の0.003%」(令和7年9月16日)。https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/250916.html(外部サイトを別タブで開く) (2か所目) (3か所目) (4か所目) (5か所目) (6か所目) (7か所目) (8か所目)

  3. 森林法(昭和26年法律第249号)10条の7の2(平成23年改正により新設)。

  4. 重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(令和3年法律第84号、令和4年9月20日全面施行)。指定対象および運用の概要は内閣府重要土地担当ホームページ「区域の指定について」を参照。https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/kuiki.html(外部サイトを別タブで開く) (2か所目)

  5. 内閣府「重要土地等調査法」https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/index.html(外部サイトを別タブで開く) /内閣府土地等利用状況審議会第10回議事録(2024年7月、全国583区域の指定が完了した旨)https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/shingikai/doc/gijiroku10.pdf(外部サイトを別タブで開く) 。区域は追加・変更されるため、最新の区域数・区域図は内閣府「区域の指定について」https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/kuiki.html(外部サイトを別タブで開く) を参照。

  6. 参議院常任委員会調査室・特別調査室「重要土地等調査法の運用状況と課題」立法と調査No.464(2023年12月)。https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2023pdf/20231218006.pdf(外部サイトを別タブで開く) (2か所目) (3か所目)

  7. 水循環基本法(平成26年法律第16号、平成26年7月1日施行)。内閣官房水循環政策本部事務局資料による。 (2か所目)

  8. 外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)第26条〜第28条。対内直接投資等の定義および事前届出の対象については、財務省・日本銀行「対内直接投資等に関する届出手続」を参照。外国投資家による不動産の直接取得は「対内直接投資等」に該当しないとされている。

  9. 北海道水資源の保全に関する条例(平成24年北海道条例第40号、平成24年4月1日施行。土地取引の事前届出制は同年10月運用開始)。北海道庁「水資源保全地域一覧」https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stt/mizusigen/mizusigen_hozentiiki.html(外部サイトを別タブで開く)

  10. 北海道庁「条例に係る施行状況の検討結果について」(令和4年度点検)https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/stt/mizusigen/sekoujyoukyou.html(外部サイトを別タブで開く) /日本テレビ系(STV)報道「水資源条例の運用改正 悪質な売主や事業者名の公表が迅速化 北海道」。

  11. 地方自治研究機構「水源地域保全条例」整理ページ(条例の動き、令和7年10月14日時点)https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/042_conservation_of_water_source_area.htm(外部サイトを別タブで開く) /内閣府地方分権改革推進室「事例21・水資源保全条例」資料。 (2か所目) (3か所目) (4か所目)

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