本文へスキップ

「反対」ではなく、「適切な開発を」——鏡野風力発電を考える会に聞く

住民が動き、事業が止まった2年半の記録

公開 2026-07-12 · 最終更新 2026-07-20 · 一般財団法人 地球防衛群

【本記事の閲覧にあたって】 本記事は、住民組織「鏡野風力発電を考える会」のメンバーへのインタビュー(2026年7月実施)をもとに、発言の趣旨を変えない範囲で編集・再構成したものです。「 」内も逐語録ではなく、発言の要旨を整理した表現を含みます。ここに記した内容は、現地で計画に向き合ってこられた方の視点によるものです。事業や制度に関する客観的な経緯は、報道・自治体公表資料に基づく「再生可能エネルギー開発計画と地域対応の事例整理」もあわせてご覧ください。個別の開発計画への対応については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

記事の内容まとめ

岡山県鏡野町で計画されていた大規模風力発電事業は、2025年8月、開発事業者が撤退を町に報告したと報じられました。その過程では、住民組織「鏡野風力発電を考える会」による請願(2024年12月に町議会が採択)や情報公開請求、そして岡山県による盛土規制法に基づく規制区域指定が、相次いで進みました。

当財団は2026年7月、この「考える会」のメンバーの方にお話を伺いました。見えてきたのは、住民の粘り強い動きと制度環境の変化が重なる中で、大規模開発計画が中止に至った、ひとつの実例です。住民はいつ、どのように計画を知ったのか。説明の場で何を感じたのか。そして「反対」の結論だけを前面に出すのではなく、「適切な開発かどうかを確認したい」という対話の進め方を選んだのはなぜか——。

同じような場面に立つかもしれない各地の方に向けて、動くことに意味があった一つの事例として、経験者の言葉を記録します。

1. はじめに——この事案の経緯

まず客観的な経緯を確認しておきます。鏡野町で進められていた「(仮称)鏡野風力発電事業」(以下「鏡野風力発電事業」といいます)1に対し、住民組織「鏡野風力発電を考える会」は2023年11月に町議会へ請願書を提出し、翌2024年12月に採択されたと報じられています2。同会による情報公開請求を通じて、町と事業者との間で地盤調査のための町有林の貸付契約が結ばれていたことが明らかになったと報じられています2

2025年4月には、岡山県が盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)に基づき県内の広い範囲を規制区域に指定し、事業者は風車基数の見直しが必要になったと報じられました3。同年8月8日、事業者の担当者が町長を訪ね、事業からの撤退を口頭で報告したと報じられています34。その後、環境省の環境影響評価情報支援ネットワークには、廃止日を2026年2月13日として、本事業が「事業廃止」と掲載されました5

詳細な制度面の整理は事例集の該当節に譲り、本記事では「その渦中にいた住民は何を経験したか」を聞きます。

2. 計画を知ったとき——「配慮書の段階で、住民はスルーされた」

風力発電のような大規模事業では、環境影響評価(環境アセスメント)の手続きが、配慮書→方法書→準備書→評価書という段階を踏んで進みます。配慮書段階では、事業者が一般から意見を聴くよう努める仕組みがあり、国や関係自治体の意見を踏まえる手続も設けられています。方法書段階では、図書の縦覧、一般からの意見提出、説明会の開催などが法定手続として行われます。地域が計画を実質的に検討するためには、配慮書段階から分かりやすい情報が届くことが望まれます。

しかし、メンバーの方はこう振り返ります。

「配慮書の段階では、地元住民への説明はありませんでした。説明があったのは、町の役員クラスや各地区の代表にあたる方々だけ。一般の住民に説明会の案内が来たのは、次の方法書の段階からです。それも、回覧板に小さな字で載っているだけ。『え、これは何?』というところから始まりました」

計画の存在を知って最初の説明会に足を運ぶと、事業者は冒頭でこう繰り返したといいます。

「『ここは賛成・反対を言う場ではありません。計画をお知らせする場です』と、最初に何度も言われました。最初からそう言われると、意見を言ってはいけない雰囲気になりますよね」

3. 「嫌だけど、我慢しなきゃいけないのかな」——揺れた出発点

意外に思えるかもしれませんが、この方は当初、風力発電そのものを悪いものだとは考えていなかったといいます。

「当時の私は、再生可能エネルギーは進めなければいけないものだと思っていました。だから『嫌だけど、再エネはいいものだから我慢しなきゃいけないのかな』という気持ちがあったんです」

その上で、まず事業者に歩み寄ることから始めています。アセスメントの現地調査に同行させてほしい、調査で分かったことを地域向けの勉強会にしてほしい——そう申し入れました。しかし事業者側から提案されたのは、建設予定地の山とは関わりの薄い、公民館でのイベント企画だったといいます。

「私が知りたかったのは『あなたたちが建設を予定している山が、どういう場所なのか』でした。提案された企画は、地元と交流しているというアピールに使われるだけのように感じられて。そこで距離を置いて、自分たちで考える活動を始めることにしました」

4. 会の立ち上げ——「まず、みんなに知ってもらう」

「考える会」は数人の呼びかけから始まりました。最初に取り組んだのは、反対の主張ではなく、事実を知らせるチラシ配りだったといいます。

「地域の中でも、計画を知らない人、関心がない人、『町に税金が入るからいいことだ』と思っている人、いろいろでした。だからまず『ここでこういう計画が進んでいますよ。このまま進めていいんでしょうか』という事実確認のチラシを配ることから始めました。その後は、仲間が作ってくれた『知っていますか? 鏡野風力発電のこと』というチラシを中心に配りました。配っているうちに、少しずつ仲間が増えていきました」

活動の入口と対話の仕方は、「反対」の結論だけを前面に出すのではなく、「適切な開発かどうかを確認する」ことに置いたといいます。一方で、立場を尋ねられたときには、曖昧にせず反対であることを伝えていました。

「賛成か反対かの二択にしてしまうと、もう戦うしかなくなる。開発自体がダメだと言っているのではなくて、適切な開発をしましょう、というトーンを大事にしました。それでも、話を聞いてくださった方からは、最後に『で、結局あんたらは賛成なん? 反対なん?』と聞かれることが多くて。そのときは『反対です』とはっきり答えていました。そうすると、その考えに賛同してくださる方が多かったんです」

「考える会」が中心となって配布したチラシ「知っていますか? 鏡野風力発電のこと」。計画の概要と、水源かん養保安林・土砂災害・騒音などへの懸念が整理されている。プライバシー等に配慮し、画像の一部を加工している。 「考える会」が中心となって配布したチラシ。当時の活動を伝える資料として掲載しています。内容は「考える会」がまとめたものです。プライバシー等に配慮し、画像の一部を加工しています。(提供:鏡野風力発電を考える会)

5. 記録を残す——録音・文字起こし・情報公開請求

活動の中で力になったこととして、この方は「記録」を挙げます。

「説明会は録音して、仲間が全部文字に起こして、記録として残しました。次の説明会で『前回はこう答えていましたよね』と確認できるし、文字にして読むと、回答の中身がどれだけあるかがよく分かるんです」

行政手続きに詳しい協力者との出会いも転機になったといいます。

「『今の段階なら、事業者はこういう許可申請を出しているはずだから、開示請求して確認するといい』と教えてくれる方がいました。意見書や請願、開示請求といった、行政や議会に提出する文書は、ほとんどその方が作ってくださったんです。ホームページを作ってくれる仲間、勉強会の資料を作ってくれる仲間もいて、本当に心強かった。だからこそ『私にできることは全部やろう』という気持ちで動けたんだと思います」

情報公開請求の活用は、報道でも本事案の特徴として取り上げられています2。録音・文字起こし・開示請求——特別な力がなくても住民にできる「記録の技術」が、この活動を支えていました。

6. 専門家とつながる——勉強会が開いた扉

最初の説明会からしばらくして、計画地の自然環境を心配する研究者らによる勉強会が開かれ、そこから専門家とのつながりが広がっていったといいます。専門家から示された生態系の豊かさや、防災上・土壌面の懸念——住民だけでは把握しきれなかった論点に、専門的な裏付けが加わっていきました。

なお、日本自然保護協会(NACS-J)は本事業について継続的に見解を発信しており、撤退報道の時点では「事業者からの正式発表はまだない」として状況を注視する姿勢を示していました6。その後、環境省の環境影響評価情報支援ネットワークには、廃止日を2026年2月13日として「事業廃止」と掲載され、環境影響評価手続の上でも事業廃止を公的に確認できる状態となっています5。同協会は2025年11月に、全国の大型陸上風力発電による自然環境への影響を整理した「大型陸上風力発電計画の自然環境影響レポート2025」も公表しています7

「権威ある団体が出している資料があれば、『私たちが個人的な意見を言っているのではなくて、こうしたきちんとした機関がこう言っているんですよ』と説明できます。議員さんにも『こういう評価が出ています』と持っていける。それはとても大きかったです」

風車と鳥類の関係——特に絶滅危惧ⅠB類の猛禽類への影響と法アセス制度の建付け——については、別記事「風車は鳥にとって何なのか——バードストライクと猛禽類保護の論点」で扱っている。

7. 残る問い——20年後の山は誰が引き受けるのか

インタビューの中で繰り返し語られたのが、事業終了後の責任という論点です。

「最初の説明会で何より衝撃だったのは、事業の期間がたった20年だと知ったことです。山をごっそり削って、豊かな森の生態系を壊してまで作るものが、20年で使い捨てになる。『持続可能なエネルギー』という言葉と、どうしてもつながりませんでした」

陸上風力発電のFIT調達期間は20年とされており、事業計画もこれに対応した期間で説明されることがあります。ただし、FITの調達期間は設備の物理的寿命や法的な運転期限を意味するものではありません。期間終了後に運転を継続するか、設備を更新するか、撤去するかは、設備の状態、採算性、許認可、土地利用契約などを踏まえて判断され、事業者の判断に委ねられる部分が大きいのが現状です。

「説明会では『20年経ったらどうするんですか』と聞きました。撤去すると言っても、地面に打ち込んだコンクリートの基礎は残ると聞きました。撤去費用は積み立てると言うけれど、積み立ては利益が出て初めて成り立つものです。もし事業会社がなくなってしまったら、誰が責任を取るのでしょうか」

【編集部注:撤去費用の積立制度について】 上記は、説明会で受けた説明に対するインタビュー対象者の当時の受け止めです。なお、FIT・FIP認定を受けた風力発電設備等については、2027年4月から廃棄等費用の外部積立制度が開始される予定とされています8。ただし、積立制度の対象範囲、基礎部分を含む撤去の範囲、事業承継時の責任、土地の原状回復をどこまで担保できるかといった論点は、引き続き確認が必要です。

「考える会」が住民説明のために作成した手描きのイラスト資料。風車の高さや騒音・低周波、生態系や災害への懸念が住民の視点から描かれている。 「考える会」が住民向けに作成した手描きイラスト。予測しにくい気象や騒音・低周波、生態系や災害への懸念が、住民の目線から描かれている。(提供:鏡野風力発電を考える会)

再生可能エネルギーには、脱炭素という「光」の面と、山林の改変・災害リスク・事業終了後の後始末という「影」の面があります。いいところにだけスポットライトを当てれば、その裏には濃い影ができる——両方を知ったうえで地域が判断できる状態をつくることの大切さは、この取材で聞き手と語り手が深く共有した実感でした。

事業終了後の撤去積立金をめぐっては、太陽光発電事業に関する岐阜県可児市の事案のように、協定書で撤去時の積立金を定めた参考例もあります9。太陽光パネル自体の廃棄・リサイクルにおいても、2026年6月に公布された太陽電池廃棄物再資源化推進法の下で、事業終了後の責任の担保が制度化されつつあります(→「太陽光パネルは、役目を終えた後どこへ行くのか」)。「将来責任を誰がどう担保するか」は、個々の反対・賛成を超えて、これからの再エネ開発全体に共通する制度的な論点です。

8. これから活動する人へ——「喧嘩にだけは、ならないように」

最後に、これから同じような場面に立つ人へのアドバイスを聞きました。

「喧嘩にだけはならないように、ということです。攻撃的に全否定すると、対立するだけになってしまう。『やめてください』ではなく、『もしやるとしたら、こういうところに気をつけないと、後で大変ですよ』という伝え方をする。そうすると『それは考えていなかった』と気づいてもらえることが、結構あるんです」

「それから、仲間です。一人では何もできません。地元には声を上げにくい空気もあります。しがらみの薄い立場だったから動けた面もある、と感じています。『よそ者・若者・ばか者』とはよく言ったもので——外から来た人や若い人が声を出すことに、意味があると思います。地元の方は影で支えてくれて、説明会で声を上げてくれた方は、仲間になってくれました」

「あとは、同じ問題に取り組んでいる各地の団体に、手当たり次第に連絡してみることです。『参考にさせてください』と聞けば、教えてくれるところはたくさんあります。最初は誰でも、何から手をつけていいか分からないものですから」

「いらないと思うものはいらない、おかしいと思うことはおかしいと、意思表明することが大切だと思います。それだけで、事業者や行政に『この事業を心配している住民がいますよ』『ちゃんと見ていますよ』と伝えることになる。私もすごく悩みましたが、このまま何もしないで本当に建設されてしまったら一生後悔すると思って、できることから始めてみた——そんな感じでした」

9. おわりに——財団として

このインタビューから当財団が受け取ったのは、「再エネか自然保護か」という二項対立ではなく、次の三つの問いでした。

  • 情報: 住民が判断するために十分な情報が、十分に早い段階で提供されていたか。
  • 手続: 説明・協議の場は、住民の疑問に応える形で設計されていたか。
  • 将来責任: 事業が終わった後の山と地域を、誰がどのように引き受けるのか。

これらは鏡野町に限った話ではありません。当財団は、再生可能エネルギーの必要性を認識したうえで、それが「適切な開発」であるために必要な情報・手続・将来責任の在り方を、引き続き調べ、記録し、発信していきます。そして、鏡野町の事案は、住民が声を上げ、記録を残し、専門家とつながることで、地域が事業計画に向き合えることを示した一例でもあります。

10. この経験を、地域の制度へつなぐ

このインタビューから見えてきたのは、特定の事業に賛成か反対かという問題だけではありません。

  • 住民が計画をいつ知ることができるか
  • 説明や協議が実質的な対話になっているか
  • 建設前の環境が記録されているか
  • 稼働後に問題が起きたとき、誰が調査するか
  • 事業の変更や終了後の責任を、誰が引き受けるか

こうした課題を個々の住民の努力だけに任せず、地域の共通ルールとして整えるため、当財団では「命の水と森を守る条例」のひな型を公開しています。

※条例ひな型は自治体での検討用資料です。現時点で特定の自治体において制定・施行されている条例ではありません。

各地の事例の制度的な整理は「再生可能エネルギー開発計画と地域対応の事例整理」を、個別の相談は環境相談をご覧ください。


出典

※インタビュー本文の「 」内は、2026年7月に当財団が実施したインタビューにおける発言の要旨です。

注・出典

  1. 計画段階環境配慮書・方法書提出時の事業者は大手再生可能エネルギー開発事業者であり、その後、同系統の別商号へ変更されている(法人名・略称は非表示)。

  2. KSB瀬戸内海放送「岡山・鏡野町で風力発電計画 反対訴える住民らが町と企業の契約解除を求め要望書『請願の趣旨に逆行する』」(2023年11月の請願提出・2024年12月採択、および開示請求により地盤調査のための町有林貸付契約が判明した経緯を報じている) (2か所目) (3か所目)

  3. 山陽新聞「鏡野・風力発電事業計画 事業者が撤退決める」 (2か所目)

  4. 鏡野風力発電を考える会「速報!事業者が撤退を決定!!」 https://kagamino-fuhatu.jimdofree.com/2025/08/08/%E9%80%9F%E5%A0%B1-%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E8%80%85%E3%81%8C%E6%92%A4%E9%80%80%E3%82%92%E6%B1%BA%E5%AE%9A/(外部サイトを別タブで開く)

  5. 環境省「環境影響評価情報支援ネットワーク」掲載の当該事業・事業廃止事例。廃止日は2026年2月13日と掲載されている(更新日2026年2月24日)。 https://assess.env.go.jp/2_jirei/2-2_search/result_haishi.html?jid=0000_2021_040-0-0&reassess=0(外部サイトを別タブで開く) あわせて、鏡野風力発電を考える会「事業廃止届を提出」(2026年4月17日掲載)も参照。 https://kagamino-fuhatu.jimdofree.com/2026/04/17/ere%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%AB%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%BB%83%E6%AD%A2%E5%B1%8A%E3%82%92%E6%8F%90%E5%87%BA/(外部サイトを別タブで開く) (2か所目)

  6. 日本自然保護協会「当該鏡野風力発電事業の計画中止報道についてのコメント」(2025年9月1日付。本文に「2025年8月29日時点で事業者からの正式発表はない」旨の記載)。 https://www.nacsj.or.jp/report/55228/(外部サイトを別タブで開く)

  7. 日本自然保護協会「大型陸上風力発電計画の自然環境影響レポート2025」公表(2025年11月6日) https://www.nacsj.or.jp/media/2025/11/57883/(外部サイトを別タブで開く)

  8. 資源エネルギー庁「廃棄等費用積立ガイドライン」および経済産業省の制度改正動向に基づく。FIT/FIP認定を受けた風力発電設備等について、2027年4月から廃棄等費用の外部積立制度が開始される予定とされている。 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fit_2017/legal/haiki_hiyou.pdf(外部サイトを別タブで開く)

  9. 「再生可能エネルギー開発計画と地域対応の事例整理」§3.3(岐阜県可児市・大森奥山湿地群) https://earth-savers.org/learn/topics/solar-wind-opposition-cases(外部サイトを別タブで開く)

関連用語