水源、農地及び森林の保全並びに土地開発行為の適正化に関する条例(ひな型案)
通称:命の水と森を守る条例 バージョン:v2.1.1(2026-07-25)
最新版:v2.1.1(2026年7月25日更新) 主な更新:住民協議(熟議期間・手続確認者)、開発前の環境測定、稼働後の調査・改善手続、既存・進行中事業への経過措置を強化しました。詳しい変更内容は末尾の「更新履歴」をご覧ください。
【利用上の注意】 このひな型は「完成条例」ではなく、自治体での議論の出発点となる「たたき台」です。採用に際しては、必ず法務担当者・顧問弁護士・議会と協議のうえ、地域の実情に合わせた修正を行ってください。 本ひな型及び逐条解説は、公開情報や先行条例をもとに一般的な構造案を示すものであり、特定の自治体・事業・紛争に対する個別の法的助言ではありません。詳しくは末尾の「ご利用にあたって」をご覧ください。
3分でわかる「命の水と森を守る条例」
この条例ひな型は、太陽光発電所や風力発電所をはじめとする一定規模以上の造成・伐採などを伴う土地開発について、水源、森林、農地、地域の暮らしを守りながら、適切な場所と方法で進めるための共通ルールを示したものです。再生可能エネルギーや地域開発を一律に禁止することが目的ではありません。
守るべき場所、事前調査、住民協議、稼働後の対応、事業終了後の責任を、計画段階から明確にすることを目的としています。あわせて、行政が恣意的に運用できないよう、判断基準・手続・事業者の弁明機会も条文で明確にしています。
再エネを止めるためではなく、不適切な開発を防ぎ、地域と調和した事業だけが進められる環境をつくる。 それが、この条例ひな型の基本的な考え方です。
8つの重要ポイント
1. 守る場所を先に決める(第5条〜第8条・別表第3)
災害リスク、水源、森林、農地、重要な自然環境などを、地域の実情に応じて「設置禁止区域」または「設置抑制区域」としてあらかじめ明確にします。地下水についても採取の届出等のルールを定めています(第8条の2〜第8条の6)。
2. 計画を早期に把握する(第9条〜第10条)
事前協議・土地取引の事前届出・計画書の提出を通じて、事業者、事業区域と規模、資金、責任体制、他法令の許可状況などを早い段階から自治体が確認できるようにします。事業者を疑うのではなく、誰がどのような計画を、どの責任体制で進めるのかを明らかにする仕組みです。
3. 開発前の環境を記録し、影響を予測する(第11条・第12条)
水質・水量、騒音、振動、地形・地質、動植物・生態系(四季を通じた生物多様性調査)など、事業の影響が生じる前の状態を測定・記録します(事前ベースライン測定)。景観、シャドーフリッカー、電波障害などは現地測定になじまないため、計画に基づく予測評価として整理します。すべての事業に同じ内容を一律に求めるのではなく、影響が生じるおそれに応じた比例的な設計です。
4. 住民が考え、質問する時間を確保する(第13条〜第15条の2)
説明会を一度開くだけで終わらせず、資料を読み、専門家に相談し、質問や意見を提出できる期間(熟議期間)を設けます。事業者には主要な質問や意見への具体的な回答を求め、資料が不足する場合は補足情報の提供を求めることができます。重視するのは形式的な説明会ではなく、計画を見直す余地がある段階での実質的な対話です。
5. 独立した専門家が手続を確認する(第15条の3)
必要に応じて、自治体が利害関係のない専門家(手続確認者)を選任し、必要な情報提供・住民協議・意見への回答などの手続が適切に行われたかを独立の立場から確認します。手続確認者は、事業計画そのものの許可・不許可を決定する者ではありません。 技術的妥当性を独立して再検証する仕組みは、稼働後の対応として第20条の2の2に別途置いています。
6. 事業者の約束を明確にする(第19条の3)
住民協議の中で事業者が受け入れた対策・約束(条例上の名称:条件付き採用事項)について、何を、いつまでに、どのような状態を履行と判断するか、誰が確認するか、実施できなくなった場合にどうするかを書面に残します。口約束を増やすのではなく、後から確認できる約束を残すための仕組みです。
7. 稼働後の問題に対応する(第20条の2の2・第21条〜第24条)
水質悪化、土砂流出、騒音・振動、シャドーフリッカー、電波障害、設備の事故などが疑われる場合、自治体が報告・測定・調査・改善を求められる仕組みを設けています。必要に応じて、事業者の調査に加えて独立した専門家による再検証も行います。
問題が確認された場合は、次の順に対応します。
- 報告・調査の要求
- 改善の勧告(第21条)
- 命令内容の事前通知
- 事業者の意見陳述・証拠提出・必要な聴聞
- 必要な措置の命令(第22条)
- 重大な違反が続く場合の公表(第23条。事前通知と弁明機会を経て実施)
- 国や関係行政機関への情報提供(第24条)
いきなり制裁するのではなく、意見聴取を経てから命令へ進む段階的な設計です。
※ これは一般的な対応の流れを示したものです。災害のおそれがある場合の緊急措置(第22条第2項)や、国・都道府県その他の関係行政機関への情報提供は、事案の内容に応じて並行して、または先行して行うことがあります。
8. 変更・終了後まで責任を残す(第18条〜第18条の3・第20条の3〜第20条の10)
損害賠償責任保険(第16条の2)、廃棄等費用積立金(第18条)、保証その他の履行担保(第18条の2・第18条の3)を組み合わせ、事業者の経営状態が悪化した場合や事業主体が変更された場合(第20条の3〜第20条の6)にも、撤去・廃棄物処理・原状回復・跡地管理の責任が宙に浮かない仕組みを目指します。管理不全施設や事業者所在不明の場合の対応(第20条の9・第20条の10)も定めています。
より詳しく:
- 住民から見た変化・よくある誤解・読み方ガイドは「一般向け解説——まず知ってほしいこと」
- 制度がなぜ必要かの現場の記録は「鏡野風力発電を考える会インタビュー」
条文の正確な内容は、下記の「本条例の理念と基本スタンス」以降をご覧ください。
本条例の理念と基本スタンス
要旨
本条例は、再生可能エネルギーの導入や地域開発を否定・排除することを目的とするものではない。脱炭素社会の推進と、地域に受け継がれてきた自然環境・地域社会との実質的な両立を実現することが、本条例の目指すところである。
補足
適切な立地及び方法による、地域環境と調和した開発は、本条例の規制対象として排除されるものではない。一方で、水源涵養機能を有する森林の伐採、土砂災害リスクを伴う急傾斜地での造成等、計画段階において地域の自然環境及び住民生活への影響が十分に考慮されていない開発に対しては、住民の生命、身体及び財産の安全を確保するため、明確かつ実効性のあるルールを適用する必要がある。
国の推進するエネルギー政策と、地域の自然環境保全とは、本来、対立する関係にはない。本条例は、国が定める枠組み(30by30、地域生物多様性増進法等)を地域の実情に応じて補完する自治立法として、市町村が自らの地域資源を適正に管理するための仕組みを定めるものである。
第1章 総則
第1条(目的)
条文
第1条 この条例は、水循環基本法(平成26年法律第16号)及び再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」という。)その他の関係法令と相まって、本町(市・県)の区域における土地開発行為の適正化及び秩序ある土地利用を図るとともに、地下水その他の水資源、農地及び森林の保全に関し必要な事項を定め、もって良好な自然環境及び生活環境の保全、災害の防止、景観の保全、生物多様性の確保並びに食料及び水の安定供給に寄与し、地域社会と各種事業との調和ある発展に資するとともに、不適切な事業の参入を未然に防止し、地域社会の安全及び環境の保全に資する適正な事業のみが実施される環境を整備することを目的とする。
逐条解説
本条は条例全体の目的規定であり、次の趣旨を示している。第一に、再エネ特措法をはじめとする関係法令と相まって地域の課題に対応するという国法と条例の補完関係を明示している。2024年4月施行の改正再エネ特措法は住民説明会をFIT/FIP認定要件として位置付けており、本条例はその国の方針を地域の実情に応じて具体化するものとして機能する。第二に、規制対象を「土地開発行為」全般として位置付けることで、太陽光・風力等の特定事業のみを対象とする構造を避けている。これは東京高判平成30年10月3日(山梨県富士河口湖町事件)において、汎用土地開発条例による再エネ規制の適法性が肯定された事例があり、その判旨を踏まえた設計である。第三に、「生物多様性の確保」を明記することで、地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律(令和6年法律第18号。2024年公布、2025年4月1日施行。以下「地域生物多様性増進法」という。)の趣旨を踏まえ、地域の自然資本の保全と増進を図る条例として、同法に基づく連携増進活動実施計画・自然共生サイト等との接続を可能にしている。第四に、末尾の「不適切な事業の参入を未然に防止し」の文言により、本条例が事後の制裁よりも事前の予防に主眼を置く設計であることを明確にしている。条例全体に置かれた各種義務(事前協議、生物多様性調査、住民協議、保険加入、廃棄等費用積立金、履行担保等)は、いずれも参入段階での適正性確保を目的とする手続として位置付けられる。
太陽光発電設備に関する自治体条例は2025年11月時点で全国310本超(自治総研論文)に達しており、本ひな型は全国的に広がる地域条例の制定潮流を踏まえ、先行条例の構造を汎用化する試みとして位置付けられる。2026年7月17日、環境影響評価法施行令の改正が閣議決定され、2027年4月1日から太陽電池発電事業の第一種事業は20MW以上、第二種事業は15MW以上20MW未満となる(環境省「環境影響評価法施行令の一部を改正する政令の閣議決定等について」(外部サイトを別タブで開く))。既に法に基づく手続を開始した一部の第二種事業には経過措置があるため、個別事案では環境省の公表資料を確認する必要がある。国の制度と自治体条例の相互補完が求められる局面となっている。
実務上の留意点:議会提案理由の説明においては、「本条例は国の再エネ政策と対立するものではなく、改正再エネ特措法及び地域生物多様性増進法が求める地域共生の理念を条例レベルで実装するもの」と位置付けることが有効である。
関連条項:第3条(基本理念)、第4条の2(他の法令等との関係)、第5条(設置禁止区域)、第24条(経済産業大臣への通報)
第2条(定義)
条文
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 土地開発行為 土地の区画形質の変更(切土、盛土、整地、伐採その他これらに類する行為を含む。)であって、別表第1に定める出力又は面積の規模以上のもの(出力基準と面積基準のいずれか一方を満たすものを含む。)をいう。
(2) 対象施設 次に掲げる施設であって、別表第1に定める出力又は面積の規模以上のものをいう。 ア 太陽光発電施設 イ 風力発電施設 ウ 水力発電施設(ダム式を除く。) エ バイオマス発電施設 オ 地熱発電施設 カ 蓄電施設 キ その他規則で定めるエネルギー関連施設
(3) 事業者 対象施設の設置又は土地開発行為を行おうとする者(法人にあってはその代表者)をいう。
(4) 設置禁止区域 第5条の規定により指定された区域をいう。
(5) 設置抑制区域 第6条の規定により指定された区域をいう。
(6) 近隣関係者 事業区域の境界線から別表第2に定める距離の範囲内に住所又は事業所を有する者をいう。
(7) 利害関係者 近隣関係者、事業区域の属する地区の自治会その他の地縁団体の代表者、事業区域に隣接する土地の所有者その他規則で定める者をいう。
(8) 「景観・生活環境影響地域」とは、対象施設の種類、規模及び配置並びに地形、風況、土地利用その他の地域特性を考慮し、次に掲げる影響が生ずることが客観的資料により合理的に予測される地点及びその周辺の一体的な区域であって、第7条の2の規定により町長(市長・知事)が指定したものをいう。 ア 可視領域解析その他の客観的な予測方法により、当該施設の眺望、シャドーフリッカー、夜間照明その他の視覚的影響が生ずることが合理的に予測されること。 イ 騒音その他施設の稼働に伴って発生する音(低周波数領域を含む。)について、国の指針、標準的な予測若しくは測定方法又は指定時における最新の科学的知見に照らし、生活環境への影響が合理的に予測されること。 ウ 水利又は水質への影響が合理的に予測されること。 エ 電波障害その他前各号に準ずる影響が、第11条の環境影響調査その他の客観的資料により合理的に予測されること。
逐条解説
本条は条例全体の解釈の基礎となる定義規定である。最重要の設計思想は第1号にある。規制対象を「土地開発行為」として設定し、その一類型として再エネ施設を含む構造とすることで、特定のエネルギー源への差別的規制という批判を回避している。富士河口湖町の「土地開発行為等の適正化に関する条例」が「開発行為の適正化と秩序ある土地利用」を一般的に規定しつつ、実質的にメガソーラーを規制し、東京高裁で自治体側勝訴を収めた法的構造をモデルとしている。
第2号第キ号で「その他規則で定めるエネルギー関連施設」を置くことで、将来の水素製造施設・データセンター・潮力発電等の新技術にも規則改正のみで対応可能としている。
第6号・第7号の「近隣関係者」「利害関係者」の定義は、住民説明会・意見書提出の範囲を画する重要概念であり、別表第2で具体的な距離要件を定める。
実務上の留意点:別表第1の規模基準は自治体の実情に応じて設定する。岡山県条例は50kW以上、山形県条例は500kW以上としており、規模が小さいほど規制網は広いが事務負担も増大する。市町村条例であれば50kW以上(低圧を含む)、県条例であれば500kW以上が目安となる。
景観・生活環境影響地域について:本号は、風力その他の大規模施設について、周辺地域(同意主体)とは別に、意見を聴く対象として広めの区域を町長が指定できる根拠を置くものである。「区域」であることを冒頭で明示し、列挙は「地点」ではなく「影響が予測されること」の観点に統一している。指定手法・資料・数値基準は規則又はガイドラインで定める。「合理的に予測される」の判断主体は、定義末尾で町長が指定すると規定されているため、各号で重ねて規定していない。イは、環境省Q&Aを踏まえ、超低周波音の参照値を規制基準として扱う書きぶりを避け、「騒音その他施設の稼働に伴って発生する音(低周波数領域を含む。)」に統合している。「指定時における最新の科学的知見」を明示することで、指定後の知見更新による遡及違法化を回避する。アにはシャドーフリッカー・夜間照明を、エには電波障害を明示することで、視覚的影響と音の影響を条文本体で区別している。
関連条項:別表第1、別表第2、第7条の2(景観・生活環境影響地域の指定手続)、第9条(事前協議)
第3条(基本理念)
条文
第3条 土地開発行為は、次に掲げる基本理念に基づき行われなければならない。
(1) 地域の自然環境、生活環境、景観及び生物多様性の保全と調和すること。
(2) 土砂災害、水害その他の災害の防止に配慮し、住民の生命、身体及び財産の安全を確保すること。
(3) 地域住民との間で十分な情報提供及び対話を行い、相互理解に基づく合意形成に努めること。
(4) 施設の設置から廃止に至るまでの全期間を通じて、適切な維持管理及び安全管理を行うこと。
(5) 事業の廃止後においては、土地の原状回復又は適切な跡地利用を確保すること。
(6) 再生可能エネルギーの利用は、地域の自然環境及び生活環境との調和を前提とし、集落単位又は建築物単位の小規模かつ自家消費型の形態が優先的に推進されるべきものとする。
(7) 水資源、農地及び森林は、地域の生命基盤として将来世代に引き継ぐべき公共財であり、その保全を最優先に図ること。
逐条解説
基本理念は裁量行政における判断基準として機能する。特に第3号は住民協議のあるべき姿を示すものであり、「同意」ではなく「相互理解に基づく合意形成への努力」と表現することで、レベル2(協議義務)の法的水準を明確にしている。住民の絶対的拒否権を認めるものではないが、形骸化した説明会の一方的開催では本号の趣旨を満たさないことを示している。
第5号は近年増大する「発電事業者の倒産後の放置パネル」問題に対応し、第18条の廃棄等費用積立金制度の理念的根拠となる。
第6号は本条例の「排除と促進」の二面性を宣言する規定である。大規模開発の規制強化と同時に、小規模分散型・自家消費型の再エネを歓迎する自治体の姿勢を明示することで、「この自治体は再エネに反対している」という誤解を避け、条例全体の正当性(比例原則の充足)を補強する。国の「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月国・地方脱炭素実現会議決定)との整合性も確保している。
第7号は、水源・農地・森林を「公共財」として位置付け、第5条以下の禁止区域指定と第9条の2の土地取引届出制度の理念的基礎を提供する。食料自給率38%(カロリーベース)という日本の現状において、農地を発電所に転用する行為への規制を正当化する根拠となる。2025年12月23日に関係閣僚会議で決定された「大規模太陽光発電事業に関する対策パッケージ」が「食料安全保障の確保に資する取組であること」を営農型太陽光の基本理念に据えたことと整合する。
実務上の留意点:本条は直接の義務規定ではないが、第21条(勧告)・第22条(命令)における行政裁量の判断基準として援用される。議会答弁では「基本理念に照らして適切か否かが行政判断の基準」と説明可能。
関連条項:第15条(見解書提出義務)、第18条(廃棄等費用積立金)、第21条(勧告)
第4条(国、他自治体及び関係機関との連携)
条文
第4条 町長(市長・知事)は、この条例の施行に当たっては、国、都道府県、近隣市町村その他の関係機関と緊密な連携を図るものとする。
2 町長(市長・知事)は、対象施設に関し再エネ特措法その他の国の法令に基づく措置が講じられることが適当と認めるときは、経済産業大臣その他の関係行政機関の長に対し、必要な措置を求めることができる。
逐条解説
本条第2項は第24条(経済産業大臣への通報)の上位理念規定であり、条例違反の事実を経産省に通報し、経産省の判断を介してFIT/FIP交付金一時停止や認定取消し等の措置につなげる仕組みの法的な土台となる。改正再エネ特措法は「関係法令(条例を含む)への違反」をこれらの措置の発動要件としているため、本条例違反は国法上の措置の発動要件を構成し得る。条例の実効性を国法の手続と接続する観点からも、本項の意義は大きい。
実務上の留意点:経産省への通報は第24条で手続を定めるが、本条は通報に限らず、環境省・林野庁・国交省等との広い連携を含む。自然共生サイト認定地での開発案件については環境省との情報共有が特に重要である。
関連条項:第24条(経済産業大臣への通報)、第4条の2(他の法令等との関係)
第4条の2(他の法令等との関係)
条文
第4条の2 この条例の規定は、国の法令及び都道府県の条例の規定と相まって、対象施設の適正な設置及び管理を図るものとする。
2 この条例の規定と都道府県の条例の規定が同一の事項について競合する場合は、当該都道府県の条例の趣旨に反しない範囲において、この条例の規定を適用する。
3 都道府県の条例に、市町村が同等以上の規制を有する条例を制定した場合の適用除外に関する規定があるときは、当該規定に従うものとする。
逐条解説
本条は、市町村条例が国法・都道府県条例と併せて適用されることを前提とし、重複適用の整理及びより厳格な基準の優先を定める調整規定である。
第1項は、本条例が単独で全ての規律を完結させるものではなく、国の法令(再エネ特措法、農地法、森林法、環境影響評価法等)及び都道府県条例と相互補完の関係にあることを宣言する。対象施設の適正な設置及び管理は、これらと相まって図られるべきである。
第2項は、同一事項について市町村条例と都道府県条例が競合する場合の適用関係を整理する規定である。「当該都道府県の条例の趣旨に反しない範囲において」との限定を付すことで、上乗せ条例としての本条例が県条例の規制目的と矛盾しないことを明示している。地方自治法第14条第1項の条例制定権に基づき、市町村が地域実情に応じて県の基準を上乗せすることは判例上も認められているが、県条例が特定の規制水準を最高限度として設定している場合にはこの限りでない点に留意が必要である。
第3項は、都道府県条例に「市町村が同等以上の規制を有する条例を制定したときは、都道府県条例の適用を除外する」等の規定がある場合に、その除外規定に従うことを定める。二重規制の過剰負担を避けつつ、県条例の文言に依存するため、採用自治体では必ず管轄都道府県の条例本文を確認すること。
国法・都道府県条例との抵触判断(徳島市公安条例事件):条例が国の法令又は上位条例に違反するか否かは、対象事項と規定文言の形式的対比のみでは判断されず、双方の趣旨・目的・内容及び効果を比較し、矛盾抵触の有無で判断される(最大判昭和50年9月10日・刑集29巻8号489頁)。本条例の各規定は、国法が全国一律の規制を意図する領域(例:設置禁止区域における国法指定区域の確認的列挙)と、地域の水源・農地・森林保全という別目的の上乗せ・横出し規制(例:第9条の2の土地取引届出、第8条の3以降の地下水規制)を分けて整理する設計であり、前記判例の枠組みに沿って説明可能と考えられる。
実務上の留意点:県単体条例のみを有する市(指定都市等を除く。)又は県が条例を有しない区域では、第2項・第3項の適用場面が限定的となる。それでも第1項の宣言規定として、国法との補完関係を説明する材料となる。
関連条項:第1条(目的)、第4条(連携)、第5条・第6条(区域指定)
第2章 区域指定
第5条(設置禁止区域)
条文
第5条 町長(市長・知事)は、次に掲げる区域を設置禁止区域として指定するものとする。
(1) 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第9条第1項に規定する土砂災害特別警戒区域
(2) 森林法(昭和26年法律第249号)第25条第1項又は第25条の2第1項に規定する保安林
(3) 自然公園法(昭和32年法律第161号)に基づく国立公園及び国定公園の特別地域及び特別保護地区
(4) 自然環境保全法(昭和47年法律第85号)に基づく原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域の特別地区
(5) 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)に基づく鳥獣保護区の特別保護地区
(6) 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)に基づく急傾斜地崩壊危険区域
(7) 水道法(昭和32年法律第177号)第3条第2項に規定する水道事業の水源として利用されている河川の取水点の周辺おおむね300メートルの範囲、湧水点の周辺おおむね100メートルの範囲その他規則で定める水源核心区域
(8) その他別表第3に定める区域
2 設置禁止区域においては、何人も対象施設の設置に係る土地開発行為を行ってはならない。
3 前項の規定は、災害復旧その他公益上やむを得ない事由により規則で定める場合には、適用しない。
逐条解説
本条は二段構えのゾーニングの第一層(絶対禁止区域)を定める。列挙された区域はいずれも国法によって既に高度の公益的規制がかけられた土地であり、本条例が独自に禁止を創設するのではなく、「国法上の保全目的と矛盾する行為を条例で確認的に排除する」構造をとる。このような構造とすることで、条例による財産権制限と国法の趣旨との整合を踏まえた設計となり、法的安定性を高めることが期待される。
自然共生サイト及びOECM登録地については、保安林や土砂災害特別警戒区域のように既存法で強い開発制限がかかる区域とは性質が異なるため、本条例では第6条(抑制区域)に位置付けている。禁止区域に含めると財産権制約が過大と争われるリスクがあるためであり、抑制区域として条件付き許可制の枠組みで生物多様性への影響の回避・最小化を事業者に求める方が法務上安定する。
第7号は水資源保全のための規定である。水道水源として利用されている河川の取水点周辺・湧水点周辺を「水源核心区域」として禁止区域に位置付け、その具体的な範囲を規則に委任する構造とした。「おおむね300メートル」「おおむね100メートル」の数値は目安であり、各自治体の水利用実態・地形に応じて規則で調整することが想定されている。なお、第2号で保安林全般(水源涵養保安林を含む。)が禁止区域に含まれるため、保安林の重複列挙は行っていない。水源核心区域より広い集水域・地下水涵養域・湧水地周辺等は、第6条第3号の抑制区域(水源保全重点区域)として段階的な保護を図る二層構造を採用している。
第3項は例外規定であり、台風被害の復旧工事等に対応する。恣意的な例外運用を防ぐため、「規則で定める場合」に限定している。
実務上の留意点:禁止区域の指定は既存の法指定区域を確認的に列挙するものであり、自治体が恣意的に追加する構造ではない。法的根拠の薄い禁止区域を追加すると憲法との関係で慎重な検討を要するため、別表第3の活用は慎重に行うこと。
損失補償との関係:本条の禁止区域規制は、災害防止・水源保護を目的とする警察制限として、財産権の内在的制約に当たるものとして整理されるため、原則として損失補償を要しないと考えられる(ため池条例事件の法理)。加えて、禁止区域は土砂災害特別警戒区域、保安林、自然公園等の国法指定地を基本としており、土地の客観的状況に基づく利用制約(状況拘束性)を踏まえた規制として位置付けられる。他方で、既存事業の継続を実質的に不能とするような場面では「特別の犠牲」の問題が生じ得るため、附則の経過措置により既存事業者の信頼保護を図る運用が求められる(河川附近地制限令事件の趣旨)。
関連条項:第6条(設置抑制区域)、第7条(区域指定の手続き)、別表第3
第6条(設置抑制区域)
条文
第6条 町長(市長・知事)は、次に掲げる区域であって対象施設の設置について特に慎重な配慮を要すると認めるものを、設置抑制区域として指定することができる。
(1) 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律第7条第1項に規定する土砂災害警戒区域
(2) 景観法(平成16年法律第110号)に基づく景観計画区域のうち、景観計画において定められた良好な景観の形成に関する方針に照らし特に配慮を要する区域
(3) 水道の水源として利用されている河川の集水域、地下水涵養域、湧水地周辺、河川の上流域その他水源涵養機能の維持に特に配慮を要する区域として規則で定める区域
(4) 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号)に基づく生息地等保護区の周辺区域その他希少な野生動植物の生息地として知られる区域
(5) 住居の用に供する建築物から別表第2に定める距離の範囲内の区域
(6) 文化財保護法(昭和25年法律第214号)に基づく国指定又は都道府県指定の文化財、史跡、名勝及び天然記念物から別表第2に定める距離の範囲内の区域
(7) 農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)に基づく農用地区域
(8) 農地法(昭和27年法律第229号)第2条第1項に規定する農地のうち、次に掲げるもの ア 同法に規定する第1種農地 イ 集団的に存在する農地その他の良好な営農条件を備えている農地として規則で定めるもの
(9) 環境大臣が自然共生サイトとして認定し、又は地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律に基づく認定を受けた増進活動実施計画若しくは連携増進活動実施計画に係る区域及び国際的に重要な地域(OECM)として登録された区域のうち、生物多様性の保全上特に配慮を要する区域
(10) 前各号に掲げる区域に隣接し、当該区域の保全上影響があると町長(市長・知事)が認める区域
(11) 町長(市長・知事)が歴史的景観、文化的資産又は自然的景観の保全のために特に必要と認めて指定した区域
(12) その他規則で定める区域
2 設置抑制区域内において対象施設の設置に係る土地開発行為を行おうとする事業者は、第9条以下に定める手続のほか、町長(市長・知事)の許可を受けなければならない。
3 町長(市長・知事)は、前項の許可の申請があった場合において、当該土地開発行為が基本理念に照らし適当でないと認めるときは、許可しないことができる。
4 町長(市長・知事)は、第2項の許可に条件を付すことができる。
逐条解説
本条は二段構えの第二層(抑制区域)を定め、一律禁止ではなく条件付き許可制とすることで、財産権保障(憲法29条)とのバランスを図っている。抑制区域は「できる」規定とし、地域の実情に応じた機動的な指定を可能としている。
第3項の不許可判断は行政裁量に属するが、第3条の基本理念及び別表第3の具体的基準に基づく必要がある。前掲富士河口湖町事件では、条例上の判断基準が具体的に示されていたことが、不同意処分の適法性が肯定された主な根拠となっている。自治体担当者は不許可処分を行う際、本条第3項に加え、別表第3の基準のいずれに該当するかを具体的に摘示する必要がある。
【不許可判断の具体基準(規則又は別表で定めることを推奨)】 第3項の「基本理念に照らし適当でない」のみでは抽象的であり、処分の適法性を争われた場合に脆弱となるおそれがある。以下の具体基準を本文又は別表に明記することが望ましい。
- 土砂災害、浸水、濁水、斜面崩壊その他災害発生のおそれが高く、必要な防止措置が講じられていないとき
- 水源、水質又は地下水に重大な影響を及ぼすおそれがあり、必要な調査又は保全措置が講じられていないとき
- 希少な動植物の生息・生育環境に重大な影響を及ぼすおそれがあり、回避又は低減措置が不十分であるとき
- 工事中及び事業終了後の維持管理、撤去、原状回復に関する計画が不十分であるとき
- 住民説明、意見聴取及び事業者による回答が適切に行われていないとき
- 関係法令に基づく必要な許認可等を取得していないとき
- 排水計画が下流域の流下能力を超えるとき
- 原状回復費用の担保が確保されていないとき
第5号の住居距離要件は、反射光・騒音・低周波音等の環境影響を踏まえたバッファゾーンの設定であり、太陽光で概ね100〜300m、風力で500〜1000mが各地の条例で採用されている。
第9号:自然共生サイト・OECM:自然共生サイト及びOECMは、保安林や土砂災害特別警戒区域のように直ちに強い開発制限がかかる区域とは性質が異なるため、本条例では禁止区域(第5条)ではなく抑制区域に位置付ける。事業者が当該区域内で対象施設を設置しようとする場合には、生物多様性への影響が回避又は最小化されることを科学的に示す必要がある。地域生物多様性増進法(2024年公布、2025年4月1日施行)に対応した条項であり、国の30by30目標(2030年までに国土の30%以上を保全)との政策的整合性を確保している。自然共生サイトの認定数は年々増加しており、各自治体は環境省の最新公表資料により、区域の有無及び範囲を確認する必要がある。
第11号:歴史的・文化的・自然的景観の補完的保全区分:文化財保護法は「指定文化財」の現状変更を規制するが、未指定の古墳・遺跡・歴史的景観の周辺民有地には届かない。同法による指定の有無にかかわらず、市町村が独自に保全を要すると認める区域(未指定古墳の周辺、阿蘇の草原のような文化的景観、歴史的町並みに隣接する里山等)を本号に基づき抑制区域として指定することで、指定文化財を起点とする従前の保全制度の隙間を補完できる。景観法の景観計画との連動や、世界遺産登録を目指す地域における無秩序な開発の抑制等、地域資源の特性に応じた柔軟な運用が可能となる。なお、本号は「特に必要と認めて指定」を要件とする裁量規定であるため、指定にあたっては区域の範囲・保全対象・保全理由を告示し、根拠を明示することが望ましい。
実務上の留意点:全域を抑制区域とする方式と、必要な区域を段階的に指定する方式があり、本ひな型は後者を採用する。各自治体の実情に応じて選択されたい。
関連条項:第5条(設置禁止区域)、第7条(区域指定の手続き)、別表第2、別表第3
第7条(区域指定の手続き)
条文
第7条 町長(市長・知事)は、第5条第1項各号に掲げる区域のうち、関係法令に基づき区域が指定されるものについては、当該区域が関係法令に基づき指定された時をもって、設置禁止区域に指定されたものとみなす。
2 町長(市長・知事)は、第5条第1項第7号若しくは第8号又は第6条第1項の規定により、規則又は別表に基づき区域を指定しようとするときは、あらかじめ次に掲げる手続を経なければならない。 (1) 指定しようとする区域及びその理由を公示し、30日以上の期間を定めて住民の意見を求めること。 (2) 前号の意見を踏まえ、学識経験者の意見を聴くこと。 (3) 指定した区域を告示し、その図面を公衆の縦覧に供すること。
3 前項の規定は、区域の指定の変更又は解除について準用する。
逐条解説
本条は区域指定の手続的正当性を確保する規定である。第1項は国法上の指定区域を自動的に禁止区域とみなす規定であり、重複手続の回避と迅速な区域確定を可能とする。第2項は自治体独自の区域追加に際して、適正手続(デュープロセス)を要求し、恣意的な区域指定を防止している。
実務上の留意点:住民意見聴取は「形式的に実施した」だけでは不十分であり、提出された意見に対する自治体の見解を公表することが望ましい。
関連条項:第5条、第6条、第8条
第7条の2(景観・生活環境影響地域の指定手続)
条文
第7条の2 町長(市長・知事)は、景観・生活環境影響地域を指定しようとするときは、第2条第8号各号に該当することを裏付ける客観的資料を添え、指定案を告示するとともに、事業者、指定案に含まれる土地の所有者若しくは占有者、当該区域に居住する者その他規則で定める利害関係人に対し、意見書を提出する機会を与えなければならない。
2 前項の告示から意見書の提出期限までの期間は、30日を下回ってはならない。
3 町長(市長・知事)は、提出された意見を考慮して指定の可否を決定し、当該意見に対する町(市・県)の考え方を公表するものとする。
4 町長(市長・知事)は、第1項の指定をしたときは、その区域、指定理由、指定の根拠となった資料、効力発生日その他規則で定める事項を告示し、事業者その他規則で定める利害関係人に通知するものとする。
5 前項の通知に際しては、行政不服審査法その他関係法令の定めるところにより、必要な教示を行うものとする。
6 本条の規定により資料又は町(市・県)の考え方を公表するときは、個人情報、希少な動植物の保護に支障を及ぼすおそれのある情報その他法令又は情報公開条例により公にすることが適当でない情報を除くものとする。
逐条解説
本条は、景観・生活環境影響地域の指定処分に対する意見聴取・回答公表・告示・教示の一連の手続を定める。第1項の利害関係人には、土地の所有者若しくは占有者(借地権者・施設管理者を包含)と当該区域に居住する者を条文本体で列挙し、「その他規則で定める利害関係人」は補完的位置づけとする。第3項で意見への回答(考え方の公表)を義務化し、手続保障の実質化を図る。第4項の記載事項は、区域・指定理由・根拠資料・効力発生日等を明示し、処分性の有無は事案ごとに判断される前提で、必要事項の告知に集約する。第5項で行政不服審査法第82条に基づく教示に接続する。第6項の非公表規定は本条全体(第1項の指定案資料、第3項の意見公表、第4項の告示・通知)に横断的に適用し、希少種の生息域が公表されることによる盗掘・撮影目的の侵入等の二次被害を防ぐ。
関連条項:第2条(定義)、第11条(環境影響調査)、第17条(地元同意)
第8条(区域図の整備及び公開)
条文
第8条 町長(市長・知事)は、設置禁止区域及び設置抑制区域を明示した区域図を整備し、これを公衆の縦覧に供するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公開しなければならない。
2 町長(市長・知事)は、区域図の内容に変更が生じたときは、速やかにこれを更新しなければならない。
逐条解説
区域図の公開は事業者の予見可能性を確保し、条例の公正性を担保する不可欠の措置である。GIS(地理情報システム)による電子的公開が望ましい。事業者が事前にゾーニングを確認できることで、禁止区域への無駄な投資を未然に防ぎ、紛争予防に資する。
実務上の留意点:総務省「太陽光発電設備等に係る条例に関する施行状況等調査結果(令和5年度)」によれば、区域図をウェブ公開している自治体の方が事業者とのトラブルが少ない傾向がある。
関連条項:第5条、第6条、第7条
第2章の2 地下水及び水源の保全
第8条の2(地下水の公共性)
条文
第8条の2 本町(市・県)の区域に存する地下水(地下を流れ、又は地下に滞留する水をいう。以下同じ。)及び湧水は、水循環基本法第3条第2項において水が国民共有の貴重な財産であり公共性の高いものとされている趣旨並びに同法第16条の2に定める地下水の適正な保全及び利用に関する地方公共団体の責務を踏まえ、現在及び将来の住民の生活、農業その他の産業並びに自然環境の保全に不可欠な公共的資源として、適正に保全され、及び利用されなければならない。
2 本町(市・県)は、地下水及び湧水の公共性に鑑み、その保全並びに持続可能かつ公平な利用の確保に必要な施策を講ずるものとする。
逐条解説
本条は、水循環基本法(平成26年法律第16号、令和3年改正)の理念を条例レベルで宣言的に受け止める規定である。同法第3条第2項は「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものである」と定めており、令和3年改正により第16条の2として地下水の適正な保全及び利用が国・地方公共団体の責務に明記された。
民法第207条との関係:民法第207条は土地所有権が「法令の制限内において」その上下に及ぶと定めており、地下水の公共性に基づく規制は、まさにこの「法令の制限」として位置付けられる。本条は土地所有権そのものを否定するものではなく、地下水という流動的な共有資源に「公共の福祉」の観点から合理的な制約を課すための法的基盤を置く。
先行事例:熊本県地下水保全条例は地下水を「公共水」と明文化した全国初の事例であり、10年以上の運用実績がある。本条はその先例に倣う。
国の動向:関係閣僚会議等で「令和8年夏までに地下水の適正な保全と利用の実効性ある仕組みの基本的考え方を整理する」との方向での検討が進められており、本条例は国の方向性と並走する設計としている。
関連条項:第8条の3〜第8条の6(地下水保全関連)、第3条第7号(基本理念・水資源の公共財化)
第8条の3(地下水の採取の届出)
条文
第8条の3 動力を用いて地下水を採取しようとする者(以下「採取者」という。)は、当該採取を開始する日の60日前までに、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を町長(市長・知事)に届け出なければならない。既に届け出た事項を変更しようとするときも、同様とする。
(1) 採取者の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、代表者の氏名、主たる事務所の所在地並びに議決権の10分の1以上を保有する出資者又は株主の氏名又は名称及び住所) (2) 採取の場所 (3) 採取施設の構造及び能力 (4) 採取の目的 (5) 1日当たりの最大採取量及び年間採取量の見込み (6) 採取した地下水の用途(販売の有無、販売先及び容器詰め等の加工の有無を含む。) (7) 地下水の涵養に関する計画
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる採取については、届出を要しない。
(1) 家庭の用に供する井戸による採取であって、揚水機の吐出口の断面積が6平方センチメートル以下のもの (2) 農業者が自己の営農のために行う採取であって、1日当たりの採取量が規則で定める量以下のもの (3) 災害時の応急用水の確保のために行う採取 (4) その他規則で定める軽微な採取
3 町長(市長・知事)は、第1項の届出の内容を審査し、当該採取が地下水の保全に支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、採取者に対し、採取量、採取方法その他必要な事項について意見を述べることができる。
4 第9条の2第1項の規定による届出において、土地の利用目的に動力による地下水の採取が含まれる場合は、当該届出をもって本条第1項の届出とみなすことができる。この場合における届出事項の補正及び情報の連携については、規則で定める。
逐条解説
本条は、動力による地下水の大量採取を行政が事前に把握する仕組みを設ける規定である。家庭用の小規模井戸や農業者の灌漑用採取は届出を要しない(第2項)ことで、住民の生活と既存農業を保護しつつ、飲料メーカー・工場等の大量採取者に絞って規律を及ぼす設計である。
「出資者・株主情報」の意義:第1項第1号で出資者・株主の氏名・住所の記載を求めることで、届出義務者に係る資本関係を行政が把握し、地下水の適正な利用の確保に資する。第9条の2の土地取引届出と同じ構造であり、特定の国籍・属性のみを対象とせず全当事者に同等の届出を求める設計とすることで、公平性と実効性の両立を図っている。
「販売の有無、販売先及び容器詰め加工の有無」:特定の製造業のみを不当に差別して規律する趣旨のものではなく、地下水の域外流出規模を行政が把握するために重要である。第8条の6の域外搬出届出と連動する。
先行事例:全国26都府県・236市区町村が269条例で地下水採取を規制している(国交省調査・令和7年10月時点)。本条は熊本県・安曇野市・佐久市の先行条例と同種の構造を採用している。
関連条項:第8条の2(地下水の公共性)、第8条の4(採取量の制限)、第8条の5(涵養の促進)、第8条の6(域外持ち出し)
第8条の4(採取量の制限)
条文
第8条の4 町長(市長・知事)は、地下水位の低下、湧水の減少、地盤沈下その他地下水の保全上の支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認めるときは、採取者に対し、採取量の削減その他必要な措置を講ずべき旨を勧告することができる。
2 町長(市長・知事)は、前項の勧告を受けた者が正当な理由なく当該勧告に従わないときは、採取量の上限を定めて、これを命ずることができる。
3 町長(市長・知事)は、第1項の判断に当たっては、地下水位観測データその他の科学的な根拠に基づくとともに、専門家の意見を聴くものとする。
逐条解説
本条は地下水の持続可能な利用を確保するための採取量制限規定である。一律の上限を定めるのではなく、地下水位データ等の科学的指標に基づき必要に応じて制限をかける「トリガー方式」を採用している。これにより、営業の自由(憲法第22条)に対する比例原則を充足する。
第3項で専門家の意見聴取を義務付けることで、行政の恣意的な判断を防ぎ、規制の客観性を担保する。地域の水文学・地質学の専門家、または都道府県の地下水関連審議会等を活用することが想定される。
実務上の留意点:地下水位観測井の設置・維持は自治体の負担となるが、国土交通省・環境省の補助制度が利用可能である。本条の運用には観測体制の整備が前提となる。
関連条項:第8条の3、第8条の5、第22条(命令)
第8条の5(地下水の涵養の促進)
条文
第8条の5 採取者は、その採取量に見合う地下水の涵養に努めなければならない。
2 前項の涵養の方法は、次に掲げるものとする。
(1) 事業所の敷地内における雨水浸透施設の設置 (2) 水源涵養林の整備(広葉樹を主体とする植林、下刈り、間伐その他の森林施業を含む。) (3) 水田の冬期湛水その他の農地を活用した方法 (4) その他規則で定める方法
3 町長(市長・知事)は、第8条の3の届出において年間採取量が規則で定める量を超える採取者に対し、地下水涵養計画の作成及び提出を求めるものとする。
4 前項の地下水涵養計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
(1) 涵養の目標量(採取量に対する割合で示すこと。) (2) 涵養の方法及び実施場所 (3) 第2項第2号の方法による場合にあっては、植林の樹種、面積、管理計画及び実施時期 (4) 涵養の実施に要する費用及びその負担方法
5 採取者は、地下水涵養計画の実施状況について毎年度、町長(市長・知事)に報告しなければならない。
6 採取者は、自ら涵養を行うことが困難な場合は、町長(市長・知事)が指定する団体(森林組合、土地改良区、NPO法人その他規則で定めるもの)に委託し、又は規則で定める基準により算定した費用を町長(市長・知事)に納付することができる。納付された費用は、第26条の2に規定する地下水涵養林整備基金に積み立てるものとする。
逐条解説
本条は熊本県地下水保全条例の「採取量に見合う涵養(原則10割)」の仕組みを参考に、地下水を採取する者が涵養にも責任を負うという「自然資本の循環原則」を条例上で具体化している。
広葉樹を主体とする植林を明示する理由:林野庁の解説資料及び複数の研究によれば、落葉広葉樹林は厚いリター層が雨水の地中浸透を促進し、水源涵養機能が高い。一方、針葉樹人工林は間伐不足で林床が裸地化すると涵養機能が低下する。ただし、適切に管理された針葉樹混交林も涵養機能を持つため、本項では「広葉樹を主体とする」という表現とし、地域の気候・潜在植生に応じた混交林を許容する設計としている。
努力義務とした理由:第1項を強行規定(「しなければならない」)とせず努力義務とした上で、第3項で大量採取者に涵養計画の提出を義務付ける二段階構造としている。これにより比例原則を充足しつつ、実効性を確保する。
委託・納付制度:第6項により、自前で森林を持たない事業者は地域の森林組合・NPO等への委託、または基金への納付で代替できる。基金は自治体が管理し、荒廃した水源涵養林の再生にも充当される。これは宅地造成等規制法関連の代替緑地負担金と同種の構造であり、法的安定性が高い。
関連条項:第8条の3、第8条の4、第16条の4(森林伐採に係る代償措置)、第26条の2(地下水涵養林整備基金)
第8条の6(地下水の域外持ち出しの届出)
条文
第8条の6 採取した地下水を容器に充填し、又は車両、配管その他の方法により本町(市・県)の区域外に搬出しようとする者であって、その搬出量が1日あたり10立方メートル以上であるもの又は年間を通じた搬出量が規則で定める量以上であるものは、規則で定めるところにより、搬出の目的、搬出量、搬出先及び搬出後の用途を町長(市長・知事)に届け出なければならない。
2 町長(市長・知事)は、前項の届出の内容が地下水の持続可能な利用又は地域住民の生活若しくは産業に必要な水の確保を著しく損なうおそれがあると認めるときは、搬出量の削減その他必要な措置を講ずべき旨を勧告することができる。
3 町長(市長・知事)は、前項の勧告を受けた者が正当な理由なく当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。
逐条解説
本条は、容器詰め飲料水・タンク輸送等による地下水の域外流出を行政が把握し、必要に応じて抑制する仕組みを設ける規定である。第1項の発動基準を「1日あたり10立方メートル以上」とすることで、一般家庭が少量の水を持ち出すような日常的行為まで届出対象とならないようにし、比例原則との適合を図っている。年間量基準は規則に委任し、季節的に大量搬出を行う事業者も捕捉する。数量基準は地域の地下水賦存量に応じて調整可能である。
域外搬出を全面禁止としない理由:域外搬出そのものを禁止すると、営業の自由(憲法第22条)への過度な制限となり、また地域間の通商の自由を阻害するおそれがある。本条は届出+勧告+公表の三段構えとし、勧告に従わない場合は第8条の4第2項の命令、第24条の経産省通報(再エネ事業に関連する場合)、第25条の過料へと接続する。
「地域住民の生活若しくは産業に必要な水の確保」:第2項の判断基準を明示することで、行政の裁量権の行使に客観性を持たせている。地下水位観測データ、水道事業者の給水状況、農業用水の確保状況等を総合的に判断する。
意義:地下水を吸い上げて域外に販売する事業が無制限に拡大すると、地域の井戸が枯れ、湧水が消滅する。本条は、地下水を「地元住民が優先的に使う共有資源」として位置付ける第8条の2の理念を具体化する規定である。
関連条項:第8条の2(地下水の公共性)、第8条の3(採取の届出)、第8条の4(採取量の制限)
第3章 事業者の義務(参入段階)
第9条(事前協議の申入れ)
条文
第9条 事業者は、対象施設の設置に係る土地開発行為を行おうとするときは、当該行為に着手しようとする日の90日前までに、規則で定めるところにより、町長(市長・知事)に対し事前協議の申入れをしなければならない。
2 前項の事前協議の申入れは、次条に規定する計画書及び図面を添えて行わなければならない。
3 町長(市長・知事)は、第1項の申入れがあったときは、速やかに事業者との協議を開始しなければならない。
4 設置抑制区域内において土地開発行為を行おうとする事業者にあっては、前各項に定める手続に加え、第6条第2項の許可の申請を行わなければならない。
逐条解説
事前協議制度は本条例の手続的中核をなす。着工90日前という期限設定は、改正再エネ特措法が説明会を認定申請の3か月前までに開催することを求めていることとの整合を図ったものである。兵庫県条例の「60日前届出」よりも長い期間を確保することで、住民説明会の複数回開催や意見書への見解書提出に十分な時間を確保している。
実務上の留意点:「着手しようとする日」とは、造成工事の着手日をいう。資材の搬入や測量のみでは着手に該当しない旨を規則で明確化することが望ましい。行政手続法第33条は申請審査の不当な遅延を禁止しているため、自治体側も「速やかに協議を開始」する義務を負う。
関連条項:第10条(計画書の提出)、第6条(設置抑制区域)
第9条の2(土地取引の事前届出)
条文
第9条の2 次に掲げる区域内の土地について、所有権又はこれに類する権利の移転又は設定をしようとするときは、当該権利の取得者(以下「届出義務者」という。)は、当該契約の締結の日の30日前までに、規則で定めるところにより、町長(市長・知事)に届け出なければならない。当該権利を譲渡しようとする者は、届出義務者の届出に協力するよう努めるものとする。
(1) 第5条第1項に規定する設置禁止区域内の土地 (2) 第6条第1項に規定する設置抑制区域内の土地のうち、規則で定める面積(1,000平方メートル)以上のもの
2 前項の届出には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
(1) 当事者(譲渡人及び取得者)の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、代表者の氏名、主たる事務所の所在地並びに議決権の10分の1以上を保有する出資者又は株主の氏名又は名称及び住所。ただし、金融商品取引法第24条第1項に規定する有価証券報告書を提出している法人については、当該報告書に記載された大株主の状況をもって代えることができる。) (2) 土地の所在、地番、地目及び面積 (3) 権利の種別並びに移転又は設定の後の利用目的 (4) 対価の額 (5) 契約の予定年月日 (6) 当該土地に係る次に掲げる事項のうち、届出義務者が知り得る範囲のもの ア 森林法第25条第1項第1号に規定する保安林(水源涵養保安林)その他水源の涵養機能を有する森林への該当の有無 イ 湧水点、水道法第3条第2項に規定する水道事業の水源として利用されている河川の集水域、その他水源として利用されている区域への該当の有無 ウ 地下水の採取施設の存否並びに土地改良法第2条第2項に規定する土地改良施設の管理区域その他の水利関係者との利害関係の有無 エ その他水源の保全に関し町長(市長・知事)が必要と認める事項として規則で定めるもの
3 町長(市長・知事)は、前項の届出の内容を審査し、当該土地の利用目的が本条例の趣旨に反するおそれがあるとき、又は当該土地の取引が水源の保全に支障を生ずるおそれがあると認めるときは、届出義務者に対し、利用目的の変更その他必要な措置を講ずべき旨を勧告することができる。前段の勧告に係る判断基準は、規則で定める。
4 町長(市長・知事)は、第2項の届出に記載漏れ又は不明確な事項があると認めるときは、届出義務者に対し、14日以上の相当の期間を定めて、書面により補正を求めることができる。届出義務者は、当該期間内に補正に応じ、又は補正に応じることができない正当な理由を書面により申し出なければならない。
5 町長(市長・知事)は、第3項の勧告に正当な理由なく従わない者があるときは、又は前項の補正に正当な理由なく応じない者があるときは、その旨を公表することができる。
6 第1項の届出は、当該取引の効力発生を妨げるものではない。届出義務者は、当該取引について町長(市長・知事)の事前の許可又は承認を要しない。
7 町長(市長・知事)は、第1項及び第2項の規定により提出された届出情報を、本条例の目的の達成のためにのみ利用するものとし、法令に基づく場合を除き、第三者に提供してはならない。届出情報のうち公表する範囲は、規則で定める。
8 第1項の届出をしない者、虚偽の届出をした者及び第4項の補正に応じない者に対しては、第25条の規定により過料を科する。
9 届出義務者は、宅地建物取引業者その他の代理人を通じて第1項の届出をすることを妨げない。
逐条解説
本条は、水源・農地・森林等の保全対象区域における土地取引を行政が事前に把握する仕組みを設ける規定である。第3条第7号の基本理念(水資源・農地・森林を公共財として将来世代に引き継ぐ)を、土地取引段階で具体化するものである。
届出義務者を「取得者」に整理した趣旨:第1項では、届出義務を権利の取得者(買主)に課し、譲渡者(売主)には届出への協力に係る努力義務を課す構造としている。これは、出資構成・株主情報・利用目的等の情報は実質的に取得者側が知り得るものであるため、譲渡者(特に高齢の地権者)に過度の調査負担を課すことを避ける趣旨である。北海道、埼玉県、長野県等の水源地域保全条例も類似の構造を採用しており、実務的に確立している。
「全当事者」を対象にする理由:本条は特定の国籍又は地域にのみ届出を課す構造を取らず、公平性と実効性の両立のため全当事者を対象とする。全当事者に届出を求めることで差別的取扱いの疑義を避けつつ、第2項第1号で資本関係の把握を図っている。出資者・株主情報については「議決権の10分の1以上を保有する者」に限定し、上場企業については有価証券報告書の大株主情報で代替可能とすることで、SPC等の資本構成の把握という目的と、開示範囲の比例原則を両立させる設計としている。水源地域内の土地取引について事前届出制度を設ける先行条例は、北海道をはじめ全国21道府県に存在し、10年以上の運用実績がある。ただし、届出義務者(譲渡者側か取得者側か)、届出時期、対象面積等は自治体ごとに異なるため、本条は取得者側に届出義務を課す独自設計としている。
水源含有確認の趣旨(第2項第6号):本号は、水源涵養機能を有する森林、湧水点、地下水関連施設等が当該土地に含まれる場合に、その状況を行政が事前に把握するための届出事項である。「届出義務者が知り得る範囲」と限定することにより、地権者及び取得者に過度の調査負担を課さない構造としている。地下水の専門的な調査までを義務化するものではなく、登記簿、森林簿、重要事項説明書等から容易に確認できる事項に限られる。「知り得る範囲」の具体例は規則で列挙する(登記事項証明書、重要事項説明書、宅地建物取引業者が通常の取引過程で取得する事項等)。
水循環基本法及び保安林制度との整合:第2項第6号アは、森林法第25条の水源涵養保安林指定を借用する形で、保安林に該当する土地の取引情報を行政が把握する仕組みである。森林法上の伐採行為制限と本条の届出義務は規制対象が異なるため、横出し規制として法令との抵触は生じない。第2項第6号イ・ウの湧水・地下水・水利関係も、水循環基本法(平成26年法律第16号)第3条第2項の理念(水は国民共有の貴重な財産)及び同法第16条の2(地下水の適正な保全及び利用)を、土地取引段階で具体化するものである。
許可制ではなく届出制とする理由:取引の事前許可を要件とすると、財産権(憲法第29条)との関係で慎重な検討を要することになる。本条は届出制+勧告+公表+補正命令の段階構造とし、第6項で「届出は当該取引の効力発生を妨げるものではない」ことを明示することで、実質的な許可制への接近を避ける構造とした。北海道水資源保全条例と同一の法的スキームに基づく。
補正命令と過料の二段構え(第4項・第8項):第6号の「知り得る範囲」と限定したことで、虚偽届出の立証が困難となるリスクがある。これに対し、第4項で町長が記載漏れ・不明確事項の補正を求められる権限を置き、補正に応じない場合を第8項により過料対象としている。これにより、「知らなかった」との抗弁では逃れられない実効性を確保しつつ、調査負担の合理性も担保する設計である。
個人情報の取扱い(第7項):届出情報には氏名、住所、出資者情報等の個人情報が含まれる。第7項は、届出情報の利用目的を本条例の目的に限定し、法令に基づく場合を除き第三者提供を禁ずる規定である。公表範囲(法人名・面積等は公表可、個人住所等は非公表)は規則で具体化する。北海道、埼玉県、群馬県の水源保全条例も同種の規定を有する。
面積要件:第2号で1,000平方メートルを基準としたのは、一般的な住宅用地取引まで届出対象とすると実務負担が過大となるためである。自治体の状況に応じて500〜5,000平方メートルの範囲で調整可能である。
経産省通報との連動:届出を怠って土地を取得し対象施設を設置しようとした場合、第24条の経済産業大臣への通報が発動する。届出義務違反 → 補正命令/勧告 → 命令 → 公表 → 経産省通報 → FIT/FIP認定停止という流れが成立する。
重要土地等調査法との関係:令和4年施行の重要土地等調査法は、安全保障上重要な施設周辺等の土地取引を国レベルで把握する制度である。本条は、それ以外の地域における水源・農地・森林の取引を市町村レベルで補完的に把握する位置付けとなる。
第8条の3との連動:取得者の届出に「利用目的:地下水の採取」が記載された場合、当該情報は第8条の3(地下水採取の届出)の発動契機となる。第8条の3第○項のみなし規定により、二重届出の負担が軽減される構造である。
宅地建物取引業者による代行(第9項):届出様式は重要事項説明書の記載項目と対照可能な形で規則化することにより、宅建業者が代理届出を行う実務に乗りやすくする。
国土利用計画法との関係:国土利用計画法(昭和49年法律第92号)は、土地の投機的取引の抑制及び地価の急激な上昇の防止を主目的とし、原則として事後届出制(同法第23条)を採る。監視区域・注視区域においては事前届出が発動する建付けである。これに対し、本条の届出は水源・農地・森林の保全という別目的の横出し規制であり、徳島市公安条例事件の判断枠組みにおける「目的の相違」に該当し得る。本条は届出制であり第6項で取引の効力発生を妨げないこと、勧告・公表・補正にとどまり取引規制の実体を持たないことを明文化しているため、国土法の規制体系と矛盾抵触しない整理が可能と考えられる。国土利用計画法に基づく土地取引の規制に関する措置等の運用指針(国土交通省。令和8年2月改正)では、法第24条第1項の「土地利用に関する計画」の例として、条例に基づく土地利用規制が行われている土地の区域が示されており、国制度においても条例による土地利用規制の併存が想定されていると考えられる。本条例第8条(区域図の整備及び公開)により禁止・抑制区域を公表することは、当該要請に応える規定として相互に参照し得る。
上乗せ規制の限界に関する留意:上位法に基づく管理制度が全国一律の上限として機能する領域では、条例による追加規制が許容されない場合がある。普通河川管理に関する高知市普通河川条例事件は、この点を示す先例として参照されるため、本条の運用に当たっても、国土利用計画法の目的・効果を実質的に阻害しない範囲にとどめることが求められる。
関連条項:第3条第7号(基本理念)、第5条(禁止区域)、第6条(抑制区域)、第8条(区域図の整備及び公開)、第8条の3(地下水採取の届出)、第10条(計画書)、第24条(経産省通報)、第25条(過料)
第10条(計画書及び図面の提出)
条文
第10条 事業者は、事前協議の申入れに当たり、次に掲げる事項を記載した計画書及び規則で定める図面を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
(1) 事業者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあってはその代表者の氏名 (2) 土地開発行為の目的、場所、面積及び期間 (3) 設置する施設の種類、出力規模及び構造の概要 (4) 土地の現況及び周辺の状況 (5) 排水計画、防災計画及び交通安全計画 (6) 工事の施行方法及び施行期間 (7) 施設の維持管理計画の概要 (8) 施設の廃止後における土地の原状回復計画 (9) 事業に要する資金の額及び調達方法(法人にあっては、議決権の10分の1以上を保有する出資者又は株主の氏名又は名称、住所及び持分割合の概要を含む。) (10) 事業者の過去の施工実績 (11) 土地の取得経緯(前条の2の届出の有無、取得年月日及び前所有者の氏名又は名称を含む。) (12) その他規則で定める事項
2 町長(市長・知事)は、提出された計画書の内容が不十分であると認めるときは、事業者に対し、相当の期間を定めて補正を求めることができる。
逐条解説
計画書の記載事項を詳細に法定することで、事業者に対し計画の成熟度を確保させるとともに、住民説明会(第13条)で説明すべき内容の基盤を形成する。第9号(資金調達方法)は事業の実現可能性を確認するとともに、投機的な案件や転売目的の認定取得を抑制する趣旨を含む。
実務上の留意点:計画書の様式は規則で定める。様式を過度に煩雑にすると中小事業者の負担が増大し、「実質的な参入障壁」として憲法との関係で慎重な検討を要することになるため、合理的な範囲に留めること。
関連条項:第9条、第11条、第12条
第11条(環境影響調査の実施)
条文
第11条 事業者は、別表第1に定める規模以上の土地開発行為を行おうとするときは、規則で定めるところにより、当該行為が周辺の環境に及ぼす影響について調査し、その結果を記載した報告書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
2 前項の調査は、次に掲げる事項について行わなければならない。 (1) 騒音、振動及び低周波音 (2) 反射光及び光害 (3) 土砂の流出及び雨水の排水 (4) 水質(濁水、有害物質の溶出を含む。) (5) 景観 (6) 日照 (7) 電波障害 (8) その他町長(市長・知事)が特に必要と認める事項
3 第1項の規定は、環境影響評価法(平成9年法律第81号)又は都道府県の環境影響評価条例に基づく環境影響評価の対象となる事業については、当該環境影響評価をもってこれに代えることができる。
4 事業者は、事業に着手する前その他対象施設又はこれに伴う工事による影響が生ずる前の時点において、通常の環境状態を合理的に反映する時期及び期間を選び、次に掲げる項目のうち、事業の種類、規模、立地及び地域特性に照らして影響が生ずるおそれがあるものとして規則で定める項目について、規則で定める方法により、現況を測定し、又は調査しなければならない。 (1) 騒音及び低周波数領域を含む環境音 (2) 水質、水量その他水環境の状況 (3) 電波障害が生ずるおそれがある場合におけるテレビ、ラジオその他の電波受信状況 (4) その他事業の種類、規模及び地域特性に応じて規則で定める生活環境項目
5 事業者は、前項の測定又は調査の結果、基礎となるデータ、実施条件及び分析方法を町長(市長・知事)に報告し、対象施設の事業期間中及び事業終了後規則で定める期間、保存しなければならない。
6 第4項の測定若しくは調査の結果又は前項の報告に係る資料は、第20条の2の2に規定する影響の有無を判断するための基礎資料として用いる。
逐条解説
本条は条例独自の簡易環境影響調査を定めるものである。環境影響評価法の対象規模に達しない中規模事業であっても、地域の環境に重大な影響を及ぼす可能性があるため、条例レベルでの調査を義務付けている。第3項で国法の環境アセスとの重複を排除し、「国法との抵触」を回避している。
実務上の留意点:本条の調査は環境アセスメントほどの厳密さを要しないが、科学的根拠に基づく合理的な調査でなければならない。調査手法・基準は規則又はガイドラインで具体化すること。
ベースライン測定の趣旨:本条第4項〜第6項は、対象施設の稼働開始前の環境状態を「通常の環境状態を合理的に反映する時期及び期間」で測定し、稼働後の因果関係判断(第20条の2の2)における基礎資料として保存する制度である。「稼働開始前」ではなく「事業に着手する前その他対象施設又はこれに伴う工事による影響が生ずる前」としているのは、造成・伐採・排水工事の段階で既に水質等が変化する可能性があるためである。測定項目は、事業の種類・規模・立地・地域特性に応じて規則で選択できる比例的設計とし、電波障害のおそれがない小規模施設への一律過剰負担を回避する。生データ・実施条件・分析方法まで保存対象とすることで、稼働後の紛争段階で証拠として活用可能にする。シャドーフリッカーは稼働前に測定できないため、本条のベースライン項目からは除外し、第2条アの視覚的影響として予測評価対象に整理している。規則設計時は、施設類型ごとの最低項目を明示し、事業者間の不均衡を防ぐ。
規則設計事項:規則には、施設類型ごとの最低測定項目、測定方法(環境省の測定マニュアルその他の公的な指針との整合)、保存期間(事業期間中及び廃止後5年以上を推奨)、生データの様式等を規定する。累積的影響(他の発生源及び既存施設との複合的又は累積的な影響を考慮すること)を先行的に規則に組み込むことを検討する(次期改訂の予告論点の一部を先行運用)。
関連条項:第2条(定義)、第12条(生物多様性調査)、第13条(住民説明会)、第16条(景観・防災への配慮)、第17条(反射光・騒音対策)、第20条の2の2(稼働起因の影響)
※ 風力発電における鳥類影響の評価要素(距離だけでなく行動圏・渡り経路・地形・事業規模等の複数要素)については、解説記事「風車は鳥にとって何なのか」を参照。
第11条の2(農地保全に係る特別要件)
条文
第11条の2 農地法第2条第1項に規定する農地(同法第43条の規定による一時転用の許可を受けた農地を含む。)において対象施設を設置しようとする事業者は、第10条に定める計画書のほか、次に掲げる事項を記載した農地保全計画書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
(1) 当該農地における過去3年間の営農実績(作付品目、収穫量及び販売額を含む。) (2) 施設設置後の営農継続計画(作付品目、予定収穫量及び労働力の確保方法を含む。) (3) 同一市町村区域内における当該作付品目の平均的な単収との比較及び2割以上の減収が生じないことの根拠 (4) 施設の撤去後における農地としての原状回復の方法及び期間 (5) 営農の継続が困難となった場合の施設撤去計画
2 町長(市長・知事)は、前項の農地保全計画書の内容が食料の安定供給又は農業の健全な発展に支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、当該計画の変更を求めるとともに、農業委員会、都道府県知事その他関係行政機関に対し、農地法その他の関係法令に基づく必要な措置を求めるものとする。
3 事業者は、施設の設置後、毎年度、当該農地における営農の実績を町長(市長・知事)に報告しなければならない。
4 町長(市長・知事)は、前項の報告により営農の継続が困難であると認めるとき、又は2年以上継続して同一市町村区域内における当該作付品目の平均的な単収を著しく下回るときは、農業委員会、都道府県知事その他関係行政機関に対し必要な情報提供を行うとともに、本条例に基づく維持管理、防災、報告その他の義務に係る違反について、必要な勧告を行うことができる。
逐条解説
本条は、農地への対象施設設置(いわゆる営農型太陽光発電を含む)に関する独自の保全要件を定めるものである。第3条第7号の基本理念(農地は将来世代に引き継ぐべき公共財)を、農地転用案件で具体化する規定である。
国法との権限分配:農地法第51条に基づく違反転用に対する原状回復命令等の権限は、同法上、都道府県知事等に置かれている。本条は、市町村長が当該権限を代替するものではなく、市町村が把握した営農状況、施設設置状況及び条例違反情報を、農業委員会、都道府県知事その他関係行政機関に連携するための通報・連携型規定である。市町村長が本条例に基づき行う勧告は、維持管理基準、防災措置、報告義務、住民説明義務その他本条例固有の規律に係る違反に限られる。
国の制度との並走:本条は2025年12月23日に関係閣僚会議で決定された「大規模太陽光発電事業に関する対策パッケージ」、及び2026年4月15日に農林水産省有識者会議が了承した制度見直し案と並走する設計である。国の制度は、農山漁村再エネ法の基本方針に「食料安全保障に資する取組であること」を明記し、衛星データによる営農実態の監視、農地法改正による定期報告義務化・是正勧告・許可取消・原状回復命令を導入する方向にある。本条は、これらの国の措置を市町村レベルで補完する連携規定である。
「2年以上継続して単収を著しく下回る」基準:農林水産省の2026年4月制度見直し案と同一の判断基準を採用している。条例と国の制度で判断基準を揃えることで、訴訟リスクを最小化している。
既存農家への配慮:本条は「対象施設を設置しようとする事業者」にのみ適用される。既存の農業者が自己の農業経営に供するため農機具置き場・育苗ハウス等で小型発電設備を活用する行為には影響しない(第28条の適用除外を参照)。
実務上の留意点:第1項第3号の「同一市町村区域内における平均的な単収」のデータは、農業委員会・農業協同組合・地域農業再生協議会との連携により把握する。データが整備されていない作付品目については、近隣市町村のデータ又は都道府県統計値で代替する運用が現実的である。
関連条項:第3条第7号(基本理念・農地公共財)、第6条第1項第7・8号(抑制区域の農地)、第10条(計画書)、第22条(命令)、第28条(適用除外)
第12条(生物多様性調査の実施)
条文
第12条 事業者は、対象施設の設置に係る事業区域及びその周辺地域において、生物多様性の確保の観点から、規則で定めるところにより、動植物の生息又は生育の状況について調査(以下「生物多様性調査」という。)を実施し、その結果を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
2 生物多様性調査は、少なくとも四季(春季、夏季、秋季及び冬季)を通じて各1回以上実施し、通算して1年以上の期間をかけて行わなければならない。
3 前項の調査は、動植物の分類学的知見を有する専門家の監修の下に行わなければならない。
4 町長(市長・知事)は、生物多様性調査の結果、事業区域又はその周辺地域に希少な野生動植物の生息又は生育が確認された場合は、事業者に対し、事業計画の変更その他の必要な措置を講ずるよう求めることができる。
逐条解説
本条は地域生物多様性増進法の趣旨を踏まえ、開発に先立つ生物多様性調査を義務付けるものである。通年1年間の四季調査を要件とすることで、渡り鳥・冬眠する両生類・季節限定で開花する植物等の見落としを防ぐ。これは環境アセスメントの標準的な手法に準拠した内容であり、合理性と必要性を踏まえた設計とすることで、法的安定性を高めることが期待される。
第3項で専門家の監修を求めることにより、事業者による形骸的な調査(「何も見つかりませんでした」報告書)を防止する。
実務上の留意点:1年以上の調査期間は事業者にとって大きな時間的負担となる。これを不当な遅延として争う事業者が出る可能性があるが、環境省の自然共生サイト認定においても通年調査が標準であり、合理的な規制水準と解される。調査開始と事前協議の申入れを並行して行うことは妨げない旨を規則で明示しておくことが望ましい。ただし、既に開発済みの土地、人工構造物上の設置、又は生物多様性への影響が軽微であることが明らかな区域については、規則又はガイドラインにより、調査項目、調査回数又は調査期間を合理的に軽減できるものとすることが望ましい。
関連条項:第6条第9号(自然共生サイト等)、第11条(環境影響調査)
第13条(住民説明会の開催)
条文
第13条 事業者は、第10条の計画書を提出した後、事業区域の近隣関係者及び利害関係者に対し、事業計画の内容について説明会(以下「住民説明会」という。)を開催しなければならない。
2 住民説明会は、少なくとも2回以上開催しなければならない。
3 事業者は、住民説明会の開催に当たっては、次に掲げる事項を遵守しなければならない。 (1) 開催の日の14日前までに、近隣関係者に対し書面により通知するとともに、事業区域の見やすい場所に開催を告示すること。 (2) 参加者が参加しやすい日時及び場所を選定すること。 (3) 参加者からの質問に対し、誠実に回答すること。 (4) 説明会の議事概要を作成し、町長(市長・知事)に提出すること。
4 事業者は、住民説明会において参加者から出された意見を踏まえ、必要に応じて事業計画を修正し、又は追加の説明会を開催しなければならない。
逐条解説
住民説明会の複数回開催義務は、山形県条例及び改正再エネ特措法の住民説明会要件化と軌を一にする。「少なくとも2回」としたのは、第1回で事業計画を説明し、住民の意見を受け、第2回で事業者の見解・対策案を説明するという二段階の対話構造を前提としているためである。
改正再エネ特措法(2024年4月施行)は、高圧以上(50kW〜)の事業について敷地境界300m以内の住民への対面説明会をFIT/FIP認定要件として位置付け、低圧(10〜50kW)は事前周知義務、市町村に「周辺住民」の追加指定権限を付与している。議事録の提出及び意見への対応方針の記載も審査対象である。本条例は、この国の枠組みに沿った手続を条例レベルで確認的に規律するものであり、「国のガイドラインに整合した手続」として位置付けることができる。
再エネ特措法施行規則との連動(第4条の2の3):再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則(経済産業省令)第4条の2の3は、FIT/FIP認定の要件として説明会又は事前周知措置の実施を定める。同条第1項第1号イ(3)には、「自然環境の保全又は良好な景観の保全を目的として条例により指定された地域」において説明会の開催が必要となる場合が含まれる。本条例第5条・第6条による禁止・抑制区域の指定は、当該省令上の説明会義務の発動要件と連動し得る。条例制定が国制度の実効性を高める相乗構造として説明可能である。省令上の説明会と本条例第13条の住民説明会の兼用可否は、規則・ガイドラインで定める運用とし、事業者の二重負担を避ける設計とすることが望ましい(P-05系の回答とも接続)。
重要なのは、本条が「住民の同意」を要件としていない点である。説明会は対話の場であり、住民の拒否権を認めるものではない。ただし第3項第3号の「誠実に回答する」義務は、形骸化した説明会の排除を意図している。
実務上の留意点:改正再エネ特措法上の説明会と本条例上の説明会は別個の法的根拠に基づくが、実務上は同一の機会で兼ねることが可能である。ガイドラインでその旨を明記し、事業者の二重負担を軽減すること。
関連条項:第14条(住民意見書の受付)、第15条(見解書の提出)
第14条(住民意見書の受付)
条文
第14条 利害関係者は、住民説明会の開催の日から起算して30日以内に、事業計画に対する意見書を町長(市長・知事)に提出することができる。
2 町長(市長・知事)は、前項の意見書の提出があったときは、速やかにその概要を事業者に通知しなければならない。
3 町長(市長・知事)は、提出された意見書の概要を公表するものとする。
逐条解説
本条は山形県条例第7条をモデルとした住民意見書制度であり、住民参加をレベル2(協議・意見表明権)で担保するものである。意見書の提出先を町長(市長・知事)とすることで、行政が住民と事業者の間に立つ構造を形成し、住民が直接事業者と対峙しなければならない負担を軽減している。
「30日以内」の期限設定は山形県条例の「公表から30日以内」と同一であり、一定の期限を設けることで手続の予見可能性を確保しつつ、住民に十分な検討時間を与えている。
実務上の留意点:意見書の様式は自由形式とし、住民の負担を最小限にすることが望ましい。ただし、氏名・住所の記載は必須とし、匿名の意見書は受理しない旨を規則で定めること(手続の透明性確保のため)。
関連条項:第13条(住民説明会)、第15条(見解書の提出)
第15条(事業者の見解書及び対策案の提出義務)
条文
第15条 事業者は、第14条第2項の通知を受けたときは、通知を受けた日から起算して30日以内に、意見書に対する見解及び講ずべき対策案を記載した書面(以下「見解書」という。)を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
2 前項の見解書には、住民説明会及び住民意見書に示された意見について、次の各号に掲げる区分により、事業者の対応を明記しなければならない。 (1) 採用 当該意見の内容を事業計画に反映する。 (2) 条件付き採用 特定の条件が履行され、又は成就することを前提として、意見の内容を反映する。 (3) 不採用 意見の内容を反映しない。 (4) 継続検討 現時点では判断せず、次段階で改めて検討する。
3 前項第2号の条件付き採用については、次に掲げる事項を記載しなければならない。 (1) 条件の内容 (2) 条件が成就したと判断する基準及び時期 (3) 条件の成就後に事業者が実施する対策の内容 (4) 当該対策の履行期限 (5) 当該対策の履行を確認する方法
4 町長(市長・知事)は、前項第5号の履行確認方法について、当該対策の実施状況を確認するために必要があると認めるときは、事業者に対し、必要な補足を求めることができる。
5 第3項の条件及び対策は、当該事業との合理的関連性を有し、その内容が具体的かつ履行可能なものでなければならない。
6 第2項第3号(不採用)については、その理由を書面により明らかにしなければならない。
7 町長(市長・知事)は、提出された見解書の内容を公表するものとする。
8 町長(市長・知事)は、見解書の内容が不十分であると認めるときは、事業者に対し、相当の期間を定めて補正又は再提出を求めることができる。
逐条解説
本条は、住民協議プロセスにおいて事業者と住民の実質的対話を確保するための中核規定である。山形県条例が知事に対する見解提出を義務付けたモデルを踏襲し、住民の意見に対して事業者が文書で回答する義務を法定している。
住民の「同意」を要件とする方式は、財産権制限の比例性や行政手続上の遅延禁止規定との関係で法的リスクを伴うため採用していない。一方、本条は住民意見への形式的な対応にとどまらない実質的な検討を求める設計であり、事業者は各懸念事項に対し具体的な見解と対策を文書で示し、その内容は公表される。内容が不十分な場合には行政が補正を求めることができる構造となっている。
実務上の留意点:見解書の「不十分」の判断基準をガイドラインで明確化すべきである。例として、「住民の懸念事項を無視している」「見解の根拠が示されていない」「対策の具体性がない」等の場合は補正を求め得る。ただし、住民の全ての要望を受け入れることまでは要しない。
対応区分の可視化と条件・対策の分離:本条第2項〜第6項は、住民意見の扱いを4区分で可視化し、条件付き採用の要素を条文本体で明確化する。「条件」(第三者や外部要因により成就するもの)と「事業者対策」(条件成就後に事業者が実施するもの)を分離することで、補助金交付・法令改正・第三者行為等を条件とする条件付き採用にも対応する。第3項第5号の履行確認方法は「事業者案の提示+町長の補足要求」方式とし、「町長の承認」構造は採らない(承認の処分性論点を回避)。第5項の合理的関連性・具体性・履行可能性は、事業者側の予見可能性と、住民意見の過度な条件化を双方向で抑える枠として機能する。従来の見解書記載事項(懸念への見解・対策・困難理由・計画修正)は、第2項の対応区分と第3項〜第6項の記載要素に統合して整理した。第7項の公表及び第8項の補正・再提出は、従来どおり維持する。
関連条項:第13条(住民説明会)、第14条(住民意見書)、第19条の3(条件付き採用事項の遵守義務)、第21条(勧告)
第15条の2(熟議及び補足情報の確保) ※新設
条文
第15条の2 町長(市長・知事)は、次の各号のいずれかに該当する事業について、前条の見解書の公表後、住民が事業者の見解を確認し、追加の情報を求めるための期間(以下「熟議期間」という。)として30日以上60日以下の期間を定めるものとする。 (1) 風力発電設備を用いる事業 (2) 造成面積その他規則で定める基準を超える大規模な造成を伴う事業 (3) 第2条第8号に規定する景観・生活環境影響地域を対象とする事業 (4) その他町長(市長・知事)が住民の熟議のため特に必要と認める事業
2 前項各号のうち規則で定めるものについては、熟議期間の上限を90日まで延長することができる。
3 住民は、熟議期間中、町長(市長・知事)を経由して、当該事業の環境、防災又は生活環境への影響を検討するために必要な範囲で、資料の提供を事業者に求めることができる。
4 町長(市長・知事)は、前項の求めが必要な範囲に属すると認めるときは、当該求めを事業者に送付するものとする。
5 事業者は、前項の送付を受けた日から30日以内に、書面又は電磁的記録により回答しなければならない。ただし、資料の作成に相当の期間を要する場合その他正当な理由があるときは、回答予定日及びその理由を町長(市長・知事)に通知しなければならない。この場合において、町長(市長・知事)は、回答予定日及び理由の概要を、遅滞なく、資料の提供を求めた住民に通知しなければならない。
6 事業者は、資料の全部又は一部を提供しないときは、その理由を町長(市長・知事)に明らかにしなければならない。町長(市長・知事)は、当該理由の概要及び提供可能な代替情報を、資料の提供を求めた住民に通知するものとする。事業者は、個人情報、第三者の権利利益を害する情報又は正当な利益を害するおそれのある営業上若しくは技術上の秘密に該当する部分を除いた概要その他代替的な情報を提供するよう努めなければならない。
7 町長(市長・知事)は、第5項の回答期限が熟議期間の満了日後となる場合又は事業者が同項ただし書による回答予定日を通知した場合において、当該回答が住民の熟議に必要であると認めるときは、必要な範囲で熟議期間を延長するものとする。ただし、当該延長期間は30日を超えないものとする。
8 町長(市長・知事)は、熟議期間の満了前に事業者が住民から取得した同意書又は協定書については、この条例に基づく手続が適正に履践され、住民が十分な情報及び検討期間を得たことを示す資料として取り扱わないものとする。ただし、熟議期間の満了後、住民が当該同意又は協定の内容を改めて確認したことを示す書面については、この限りでない。
9 前項の規定は、事業者と住民との間の民事上の契約の効力を否定するものではない。
10 町長(市長・知事)は、農繁期、積雪期その他住民の熟議への参加が著しく困難な事由があると認めるときは、当該事由が存する期間について、熟議期間の開始時期を調整することができる。ただし、当該調整による繰り下げ幅は、当該事由が解消するまでの期間を超えてはならず、かつ、事業者の再エネ特措法に基づく認定申請その他法令上の手続に不当な支障を与えないものとする。
逐条解説
本条は、風力・大規模造成・景観影響地域案件について、意見書30日+見解書30日に加え、住民が事業者の見解を確認し追加情報を求める期間を確保する制度である。第1項の対象案件を4区分に限定し、全案件一律の期間延長は避ける(比例原則)。第2項の90日上限は高影響案件に限定的に適用され、鏡野V4の150日は町固有事情として全国ひな型では採らない。第3項〜第6項の資料請求フローは町長経由とし、町が入口で必要性・重複・本人確認を整理することで、濫用・嫌がらせ請求を防止する。第7項の熟議期間延長は、事業者の回答が期間内に間に合わない場合の救済規定である。回答予定日が延長後の熟議期間を超える場合、町長は事業者に対し、部分回答又は代替資料の先行提供を求めることが望ましい。第8項が本条の核心:契約自体は禁止せず、「手続適正の証拠として扱わない」ことに限定する。行政庁が何の判断で扱わないのかを明確化することで、契約自由への直接介入を回避する。第9項で民事上の効力への不干渉を明示。第10項の開始時期調整は、繰り下げ幅の上限と「不当な支障」禁止のセーフガードを条文本体に置く。
関連条項:第2条(定義)、第13条(住民説明会)、第15条(見解書)、第15条の3(手続確認者)
第15条の3(手続確認者) ※新設
条文
第15条の3 町長(市長・知事)は、第15条の2第1項各号に掲げる事業について、住民説明会及び熟議期間における手続の実施状況を調査するため、次の各号のいずれかに該当する者のうちから、地方自治法第174条に規定する専門委員を選任し、手続確認者として必要な事項の調査を委託することができる。 (1) 弁護士、司法書士その他の法律に関する専門家 (2) 環境、防災又は合意形成に関する学識経験者 (3) 地方公共団体の職員又は職員であった者で、環境、防災、行政手続その他当該調査に必要な専門的知識及び経験を有するもの
2 当該事業者、関係団体又は当該手続に関係する者との間に、職務の公正を害するおそれのある直接かつ重大な利害関係を有する者は、手続確認者に選任することができない。選任を受けようとする者は、あらかじめ利害関係の有無を町長(市長・知事)に自己申告しなければならない。
3 町長(市長・知事)は、選任にあたり、事業規模、想定される影響、当該地域の住民数、利害対立の程度、過去の手続における問題の有無その他規則で定める客観的な事情を考慮して、選任の要否を判断する。
4 手続確認者は、次に掲げる職務を行う。 (1) 住民説明会の開催状況及び議事の適正の確認 (2) 事業者による誘導、威圧、不当な利益供与その他手続の公正を害するおそれのある行為に関する事実の調査 (3) 住民が自由な意思に基づいて意見を表明できる環境の確認 (4) 熟議期間における追加情報提供及び対応の適正の確認 (5) 手続確認報告書の作成及び町長(市長・知事)への提出
5 手続確認者は、それぞれ独立して調査を行い、合議による法的判断又は住民の意思の代行を行わないものとする。
6 手続確認者は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。退職後も、同様とする。
7 手続確認者は、報告書の案を作成したときは、事業者及び報告書案に自己に関する事実が記載されている者に対し、当該事実に関する記載について訂正を申し出る機会を与えるものとする。
8 町長(市長・知事)は、手続確認報告書又はその概要を公表することができる。ただし、次に掲げる情報については、公表してはならない。 (1) 個人情報 (2) 第三者の権利利益を害する情報 (3) 正当な利益を害するおそれのある営業上又は技術上の秘密
9 事業者は、手続確認者の職務遂行に協力し、これを妨げてはならない。
10 手続確認者の報酬及び費用弁償は、町(市・県)の負担とし、その額及び支給方法は、関係条例の定めるところによる。
逐条解説
本条は、高影響案件について、説明会の誘導・威圧・情報の偏りを確認する中立的な第三者を、地方自治法第174条の専門委員として置く制度である。事業者による直接選任・報酬支払は行わせず、費用は町の負担とし、額及び支給方法は関係条例(非常勤特別職報酬条例等)に委ねる。第1項で個別委嘱+専門委員と明示し、附属機関性の疑義を消す。合議・多数決による判断は条文上想定しない。第4項第2号は「不正な行為の有無の確認」ではなく「手続の公正を害するおそれのある行為に関する事実の調査」とし、法的認定と実務範囲を分離する。第7項の事実訂正機会は「報告書案に自己に関する事実が記載されている者」に限定し、無関係者からの介入を防ぎつつ、当事者の防御権を確保する。第8項の公表は原則公表・除外情報を3類型で明示。
「当該手続に関係する者」とは、当該手続に参加し、資料若しくは意見を提出し、又は当該手続による確認の対象となる者をいう。単に対象地域に居住し、又は事業に対する一般的な関心を有することのみをもって、これに該当するものではない。
関連条項:第15条(見解書)、第15条の2(熟議期間)、地方自治法第174条
第16条(景観及び防災への配慮)
条文
第16条 事業者は、対象施設の設置に当たっては、周辺の景観との調和を図るため、次に掲げる措置を講じなければならない。
(1) 植栽、遮蔽構造物その他の方法による周辺からの遮蔽措置 (2) 施設の色彩、形状及び素材についての周辺環境との調和への配慮 (3) 公道及び住居からの視認性の低減への配慮
2 事業者は、土砂災害、水害その他の災害の防止のため、次に掲げる措置を講じなければならない。 (1) 適切な排水施設の設置 (2) 法面の崩壊防止措置 (3) 土砂流出防止措置 (4) 施設の耐風圧・耐震設計 (5) その他規則で定める防災措置
逐条解説
景観配慮と防災措置を一条にまとめて規定する。景観については富士河口湖町及び富士宮市の景観条例の知見を反映し、物理的な遮蔽措置を義務付けている。防災については、太陽光パネルの崩落事故(2019年台風15号等)を教訓に、具体的な防災措置を列挙している。
実務上の留意点:景観条件はその地域の景観計画との整合が必要。景観計画を有する自治体では、当該計画の基準を本条の解釈に取り込むことが可能である。
関連条項:第6条第1項第2号(景観計画区域)、第11条(環境影響調査)
第16条の2(損害賠償責任保険等への加入義務)
条文
第16条の2 事業者は、対象施設の設置工事の着手前に、当該施設に起因して第三者の生命、身体又は財産に損害を生じさせた場合における損害賠償責任を填補するため、次の各号に掲げるいずれかの保険又は共済に加入しなければならない。
(1) 施設賠償責任保険 (2) 前号と同等以上の補償内容を有する共済
2 前項の保険又は共済は、次に掲げる要件を満たすものでなければならない。
(1) 補償の対象に、施設の倒壊、崩落、飛散、土砂流出、浸水その他の事故に起因する第三者への損害を含むこと (2) 保険金額(てん補限度額)が、規則で定める額以上であること (3) 保険期間が、施設の運転開始から廃止までの全期間を継続的にカバーすること
3 事業者は、前項の保険又は共済に加入したときは、速やかにその加入を証する書面の写しを町長(市長・知事)に提出しなければならない。
4 事業者は、保険又は共済の契約を更新し、変更し、又は解約したときは、速やかにその旨を町長(市長・知事)に届け出なければならない。
5 町長(市長・知事)は、事業者が第1項の規定に違反して保険又は共済に加入していないと認めるときは、期限を定めて加入を勧告し、なお従わないときは、第22条の命令を発することができる。
逐条解説
本条は、施設の倒壊・崩落・飛散等による第三者被害が発生した場合に、被害者が確実に賠償を受けられる環境を整備する規定である。
民法第717条(土地工作物責任)により、太陽光パネルや風力発電機の設置・保存の瑕疵に起因する損害については、占有者である事業者が無過失でない限り責任を負い、所有者は無過失でも責任を負う。しかし、現実には事業者がSPC(特別目的会社)で資産を持たない場合、被害者が勝訴しても回収が困難となる。本条は保険加入を行政上の義務として課すことで、賠償能力の空洞化を防止する。
先行事例の存在:2025年6月施行の北海道登別市条例は損害を填補するための保険又は共済への加入を義務付け、2025年9月施行の北海道釧路市条例は損害賠償責任保険への加入を義務付けている。本条はこれら先行自治体の条例構造を踏襲したものであり、前例のない挑戦ではない。
国法との関係:経済産業省「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」は2022年4月から賠償責任保険への加入を努力義務としている。条例で努力義務を義務に格上げすることは、地域の実情に応じた「上乗せ条例」の典型であり、自転車損害賠償責任保険の義務化条例(全国多数の自治体)と同様の手法である。
副次的効果:保険会社は引受審査の段階で施設の安全性を評価する。これにより保険加入義務は、行政の事前協議とは別の「もう一つの審査フィルター」としても機能する。設計が杜撰な計画は保険会社が引き受けないため、事業者の設計品質を底上げする効果が期待できる。
関連条項:第16条の3(災害時の応急措置)、第18条(廃棄等費用積立金)、第18条の2(履行担保)
第16条の3(災害時の応急措置及び届出義務)
条文
第16条の3 事業者は、対象施設に起因し、又は起因するおそれのある災害が発生したときは、直ちに被害の拡大を防止するために必要な応急措置を講じなければならない。
2 事業者は、次の各号のいずれかに該当する事態が発生したときは、発生の日から起算して24時間以内に町長(市長・知事)に報告し、かつ、30日以内に原因、被害状況及び講じた措置の内容を記載した報告書を提出しなければならない。
(1) 施設の全部又は一部の倒壊、崩落又は飛散 (2) 施設に起因する土砂の流出又は崩壊 (3) 施設に起因する浸水又は冠水 (4) 施設に起因する火災 (5) その他第三者の生命、身体又は財産に損害を生じさせた事故
3 町長(市長・知事)は、前項の報告を受けたときは、速やかに現地調査を行い、必要があると認めるときは、事業者に対し追加の応急措置又は原状回復を命ずることができる。
4 町長(市長・知事)は、第2項の事態が発生した場合において、事業者の所在が不明であるとき又は事業者が応急措置を講じないときは、自ら必要な応急措置を講じ、その費用を事業者に求償することができる。
逐条解説
本条は、災害発生時の応急措置義務と報告義務を法定することで、「事故が起きたのに事業者と連絡が取れない」「誰が対応するのかわからない」という現場の混乱を防止する規定である。
第2項の二段階報告(24時間以内の即時報告と30日以内の詳細報告書)は、迅速性と正確性を両立させる構造である。即時報告により行政の現地確認・住民への注意喚起を可能にし、詳細報告書により原因究明と再発防止策の検討を担保する。
第3項の現地調査は、被害者にとって極めて重要な意義を有する。民法第717条による損害賠償請求においては、被害者が因果関係を立証する負担を負うが、行政による現地調査の記録は公的な証拠として活用可能である。これにより被害者の立証負担を実質的に軽減する。
第4項は、行政代執行に類する費用求償規定である。事業者が対応不能な場合に住民安全の確保を最優先とする一方、その費用は事業者から回収する構造により、住民負担への転嫁を防いでいる。第18条の廃棄等費用積立金及び第18条の2の履行担保と組み合わせることで、求償の実効性が確保される。
実務上の留意点:報告様式は規則で定めること。24時間以内の報告については、電話・電子メール等の即時連絡手段を許容し、文書による正式報告を後追いとする運用が現実的である。
関連条項:第16条の2(保険加入)、第18条(廃棄等費用積立金)、第18条の2(履行担保)、第22条(命令)
第16条の4(森林伐採に係る代償植林)
条文
第16条の4 対象施設の設置に伴い森林(森林法第2条第1項に規定する森林をいう。)を伐採しようとする事業者は、伐採面積以上の面積において、広葉樹を主体とする植林(以下「代償植林」という。)を行わなければならない。
2 代償植林は、次に掲げる基準に従い行うものとする。
(1) 植林の場所は、本町(市・県)の区域内又は同一水系の流域内とすること。 (2) 植林する樹種は、当該地域に自生する広葉樹を主体とし、規則で定める樹種一覧から選定すること。 (3) 植林の面積は、伐採面積の1.5倍以上とすること。 (4) 植林後10年間は、下刈り、補植その他必要な保育を行い、毎年度その実施状況を町長(市長・知事)に報告すること。
3 事業者は、自ら代償植林を行うことが困難な場合は、町長(市長・知事)が指定する団体(森林組合、NPO法人その他規則で定めるもの)に委託し、又は規則で定める基準により算定した費用を町長(市長・知事)に納付することができる。
4 前項の規定により納付された費用は、第26条の2に規定する地下水涵養林整備基金に積み立て、水源涵養林の植林及び保育並びに荒廃森林の再生に充てるものとする。
5 町長(市長・知事)は、事業者が第1項の規定に違反して代償植林を行わないとき、又は第2項各号の基準を満たさないときは、第22条の命令を発することができる。
逐条解説
本条は、森林を伐採して施設を設置する事業者に対し、伐採面積を上回る代償植林を義務付ける規定である。第8条の5の「採取量に見合う涵養」と並び、本条例の「自然資本の循環原則」を具体化する条項である。
1.5倍の根拠:森林伐採による水源涵養機能・生物多様性機能の喪失は即時的に発生するが、植林した樹木が同等の機能を発揮するまでには10〜20年を要する。このタイムラグを埋めるため、面積を割増しする設計とした。仙台市等の太陽光発電に関する自粛要請、福島市の無届伐採に対する中止命令事例、森林法第34条の4(保安林の植栽義務)等の先行事例を踏まえている。
「当該地域に自生する広葉樹」とした理由:外来樹種を植えると地域生態系を撹乱する。コナラ・クヌギ・ブナ・ケヤキ・カエデ類など、地域の潜在植生に基づく樹種を規則別表で指定する。林野庁の解説資料及び複数の研究によれば、落葉広葉樹林は厚いリター層が雨水の地中浸透を促進し、水源涵養機能が高い。「主体とする」の表現は、地域の標高・気候に応じた混交林を許容する設計である。
委託・納付制度:第3項により、自ら植林を行う体制を持たない大規模事業者は、地域の森林組合や林業者と協定を結び委託植林で対応できる。または規則で定める基準額を基金に納付する選択肢も用意した。これは宅地造成等規制法関連の代替緑地負担金、都市計画法における開発許可条件としての緑化負担と同種の構造であり、法的安定性が高い。
10年間の保育義務:植えただけで放置すれば枯れる。下刈り・補植・年次報告を10年義務付けることで「植えっぱなし」を防ぐ。森林法の保安林植栽義務と同程度の規律強度である。
第8条の5との関係:第8条の5は地下水採取者の涵養義務、本条は森林伐採者の代償植林義務であり、いずれも広葉樹植林を「奪ったものを返す」手段として位置付ける。両条が同じ基金(第26条の2)に接続することで、地域の水源涵養林整備が一元的に進む構造となる。
関連条項:第8条の5(地下水涵養)、第3条第7号(基本理念)、第22条(命令)、第26条の2(地下水涵養林整備基金)
第17条(反射光、騒音及び低周波音対策)
条文
第17条 事業者は、対象施設から発生する反射光、騒音及び低周波音による近隣関係者の生活環境への影響を防止するため、別表第2に定める距離及び規則で定める基準を遵守しなければならない。
2 事業者は、前項の基準を遵守するために必要な措置として、次に掲げる措置の全部又は一部を講じなければならない。 (1) 反射光の軽減のための施設の角度調整又はアンチグレアパネルの使用 (2) 騒音源(パワーコンディショナー、変圧器、風力発電機等)と住居との間の十分な離隔距離の確保又は防音措置 (3) 低周波音の測定及びその結果に基づく追加的な対策
逐条解説
太陽光パネルの反射光及び風力発電の騒音・低周波音は住民苦情の主要因である。本条は個別の技術的対策を義務付けることで、紛争の予防的解消を図る。
実務上の留意点:低周波音については環境省「低周波音問題対応の手引書」(平成16年)の参照値が存在するが、法的拘束力のある基準は確立されていない。規則で独自基準を設定する場合は科学的根拠に基づく必要がある。
関連条項:第11条(環境影響調査)、別表第2
第17条の2(離隔距離)
条文
第17条の2 事業者は、対象施設(パワーコンディショナーを含む。)を、次に掲げる対象物から、それぞれ規則で定める距離以上離隔して設置しなければならない。
(1) 住居の用に供する建築物 100メートル以上 (2) 学校教育法第1条に規定する学校の通学の用に供する道路 50メートル以上 (3) 河川、水路又は農業用水取水施設 30メートル以上
2 前項の規定にかかわらず、事業者が反射光シミュレーション及び騒音予測により、前項各号に掲げる対象物に対し環境上の支障がないことを科学的に証明した場合は、町長(市長・知事)は離隔距離の短縮を認めることができる。
逐条解説
本条は、対象施設からの反射光、騒音、低周波音、設備故障時の影響等を、住居・通学路・水路等から物理的に隔離するための離隔距離を定める規定である。
第1号(住居 100m以上):環境省ガイドライン及び総務省関連報告書を踏まえ、反射光・低周波音による居住環境への影響を抑える水準として設定した。各地の自治体条例(北海道えさし町、長野県諏訪市等)における実例の中間的水準である。
第2号(通学路 50m以上):通学する児童・生徒への影響を踏まえた特別の離隔。学校敷地そのものは別表第2の禁止区域距離要件で対応する。
第3号(河川等 30m以上):水質汚濁防止、農業用水への影響、災害時の流出防止のための離隔。
第2項:科学的証明による短縮認定:一律の離隔距離では合理的でない事案(地形、植生、施設の方位、低反射パネルの採用等)に対応するため、事業者の科学的証明によって短縮を認める運用余地を残す。これにより比例原則を確保する。
関連条項:第17条(反射光・騒音対策)、第19条第4号(基準値遵守)、別表第2
第17条の3(傾斜地における設置制限)
条文
第17条の3 次に掲げる区域においては、対象施設の設置をしてはならない。ただし、町長(市長・知事)が防災上の安全性が十分に確保されると認めた場合は、この限りでない。
(1) 傾斜度が20度以上の土地(森林法第5条第1項の地域森林計画の対象となっている民有林にあっては、傾斜度が15度以上の土地) (2) 第6条第1項第3号の規定により指定された水源地域又は河川の上流域であって水源涵養機能の維持に特に配慮を要する区域のうち、規則で定める急傾斜地
2 前項ただし書の認定を受けようとする者は、地盤調査報告書、土砂災害シミュレーション結果その他規則で定める書類を添えて町長(市長・知事)に申請しなければならない。
逐条解説
本条は、土砂災害リスクの高い傾斜地における対象施設の設置を、原則として制限する規定である。
第1号:傾斜度基準:森林の伐採を伴う傾斜地での造成は、土砂流出・崩壊リスクを高める。林野庁において傾斜30度以上の林地開発許可に関する基準強化の検討が進められていることを踏まえ、本条では予防原則の観点から20度以上を原則制限とする。地域森林計画対象民有林については、植生回復の観点からさらに慎重を期し、15度以上を対象とする。
20度基準の合理性:20度は、兵庫県告示の30度基準より厳しい水準であるが、これは地域の脆弱な地盤や過去の土砂災害履歴等を踏まえた設定である。近年の集中豪雨の頻発化と、傾斜20〜30度の中間帯での土砂災害事例の増加(土砂災害警戒区域指定基準の見直し議論を参照)を踏まえ、予防原則の観点から採用している。各自治体においては、過去10年間の災害発生箇所と傾斜度の関係、地質調査データ等を踏まえ、条例制定時に個別に合理性を確認することが望ましい。
【傾斜度基準の選択式運用】 本ひな型では20度(森林15度)を採用しているが、全国ひな型として運用する場合は、地域の地質・災害履歴・降雨特性に応じた選択式が推奨される。標準案:30度以上、強化案:20度以上、水源・軟弱地盤・災害履歴地:15度以上の三段階とし、規則で「傾斜度基準は地域の地質、災害履歴、降雨特性に応じて15度、20度、30度のいずれかから選択する」と定めることも可能である。
第2号:水源涵養区域内の急傾斜地:本条例第6条第1項第3号により設置抑制区域として指定された水源地域又は上流域については、急傾斜地での造成が地下水流動・伏流水に与える影響が大きいため、規則で定める急傾斜地を併せて制限対象とする。
第2項:例外認定の手続:本条は原則禁止としつつ、防災上の安全性が十分に確保される場合の例外を残す。事業者は地盤調査報告書、土砂災害シミュレーション結果等の科学的根拠を添えて申請する必要があり、過度な財産権制約を回避する設計である。
関連条項:第5条(禁止区域)、第6条(抑制区域)、第17条の4(排水施設・調整池)
第17条の4(排水施設及び調整池の設置義務)
条文
第17条の4 事業区域の造成面積(切土又は盛土により地表の形質を変更する面積をいう。)が3,000平方メートル以上である対象施設を設置しようとする者は、次に掲げる基準を満たす排水施設及び調整池又はこれに準ずる雨水流出抑制施設を設置しなければならない。
(1) 排水施設は、計画対象降雨(30年確率降雨強度)に対し、事業区域及びその流域からの地表水等を安全に排出できる勾配及び断面積を有すること。 (2) 調整池は、造成後のピーク流出量が造成前のピーク流出量を超えないために必要な容量を有すること。容量の算定方法は、規則で定める。 (3) 排水施設の末端には泥溜め又は沈砂池を設置し、事業区域外への土砂流出を防止すること。
2 前項の施設の設計図書は、第9条(事前協議)の申入れ又は第10条(計画書)の提出時に添付しなければならない。
3 町長(市長・知事)は、事業区域が水源涵養機能を有する森林に隣接し、又は地下水涵養域に所在する場合は、前項の基準に加え、浸透施設の併設その他の地下水涵養に資する措置を講ずべきことを条件として付すことができる。
逐条解説
本条は、対象施設の造成に伴う雨水流出の増加が、下流域の浸水被害、河川への土砂流出、水源涵養機能の低下を引き起こすことを防ぐ規定である。
3,000平方メートルの閾値:本号は、土地の形質変更により地表浸透能力が顕著に低下し始める規模の目安として採用した。兵庫県条例(5,000㎡以上)よりやや厳格な水準であり、水源涵養を重視する本条例の理念に沿うものである。
30年確率降雨強度:国土交通省・農林水産省の関連基準と整合する設計水準。近年の集中豪雨の頻発化を踏まえ、規則で必要に応じて50年確率に強化する余地を残す。
ピーク流出量ベースの調整池設計:第2号は、調整池の容量算定を「造成後のピーク流出量が造成前を超えないこと」を基準とする設計とした。合理式(Q = 1/360 × C × I × A)等に基づく流出係数の設定は規則に委任し、造成前の土地被覆(森林・農地・裸地等)と造成後の被覆に応じた合理的な数値を定めるものとする。この方式は、国土交通省の技術基準及び都道府県の開発許可基準と整合する標準的手法である。
第3項:水源涵養域での追加措置:水源涵養機能を有する森林に隣接する事業区域については、単に雨水を排出するだけでなく、地中への浸透を促す浸透施設の併設等を求めることができる。第8条の2の地下水公共性宣言の理念を、排水施設の技術基準レベルで具体化するものである。
関連条項:第8条の2(地下水公共性)、第17条の3(傾斜地設置制限)、第19条第2号(排水施設の機能維持)
第18条(廃棄等費用積立金)
条文
第18条 事業者は、対象施設の設置の工事に着手する日までに、当該施設の撤去、運搬及び処分に要する費用並びに事業区域の原状回復に要する費用(以下「廃棄等費用」という。)に充てるため、規則で定める額の金銭を、規則で定める金融機関に供託し、又は町長(市長・知事)が指定する信託口座に信託しなければならない。
2 前項の規則で定める額は、対象施設の出力1キロワットにつき1万円を下限として、施設の規模、構造、設置場所の条件並びに次の各号に掲げる費用を勘案し、規則で定める算定方法により算出した額とする。
(1) 対象施設の全ての構成部材(パネル、架台、パワーコンディショナー、送電設備、フェンス等)の撤去費用 (2) 有害物質を含む部材の適正処理費用(管理型最終処分場への搬入又は認定リサイクル施設での処理に要する費用のうち、いずれか高い方を基準とする。) (3) 造成された土地の原状回復費用(法面復旧、表土回復、植生回復を含む。) (4) 排水施設、防災施設その他の附帯施設の撤去費用
3 第2項の算定に当たっては、施設の廃止予定時期までの物価変動を考慮し、規則で定める物価上昇率を乗じた額を廃棄等費用積立金の額とする。
4 廃棄等費用積立金の額は、5年ごとに見直すものとし、町長(市長・知事)は、物価変動、廃棄物処理費用の動向その他の事情の変化を踏まえ、積立額の増額を事業者に求めることができる。
5 再エネ特措法に基づく廃棄等費用外部積立を行っている事業者にあっては、その積立額を本条第1項の廃棄等費用積立金の一部に充当することができる。この場合における充当額の算定方法は、規則で定める。ただし、充当額は本条第2項により算定した額の2分の1を超えてはならない。
6 事業者は、毎事業年度の終了後90日以内に、廃棄等費用積立金の残高を証する書面を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
逐条解説
本条は、対象施設の撤去・廃棄段階における費用負担を、事業着手前に確保する規定である。再エネ特措法に基づく国のFIT廃棄等費用外部積立制度(10kW以上の事業用太陽光が対象)の構造的な不足を条例レベルで補完するとともに、FIT/FIP制度の対象外となる施設や、FIT期間終了後に放置されるパネル問題にも対応する設計である。
第1項:供託・信託の義務化:廃棄等費用に充てる金銭の供託又は信託を、事業着手の日までに義務付ける。これにより、事業の途中で事業者が破綻した場合にも、撤去・原状回復の財源が確保される構造となる。供託先及び信託口座の指定方法は規則で具体化する。
【担保手段の多様化推奨】 条文上は供託・信託のみを規定しているが、実務運用においては、履行保証保険、金融機関による保証、保証会社保証、自治体指定の積立証明など、多様な担保手段を規則で認めることが現実的である。供託の法的根拠、信託口座の管理主体、破綻時の優先権、返還条件、FIT廃棄等費用外部積立との関係は規則・要綱で詳細に定める必要がある。安定版の条文案:「事業者は、廃棄等費用に充てるため、供託、信託、履行保証保険、金融機関による保証その他町長(市長・知事)が適当と認める方法により、規則で定める額の担保を確保しなければならない。」
第2項:算定基準(1キロワットあたり1万円下限):環境省・経済産業省の関連報告(2024年)における標準的な撤去費用の水準(1〜2万円/kW)を踏まえ、下限を1万円/kWとした。実際の算定は、施設の規模・構造・設置場所の条件等を勘案して規則で定める。第2号の「リサイクル又は埋立のいずれか高い方」の基準は、有害物質(カドミウム、鉛、セレン等)の適正処理を要求し、最低水準への安住を防ぐ趣旨である。
第3項:物価上昇率の事前乗算:FIT積立額は認定時点で固定されるが、20〜30年後の撤去時には建設資材費・人件費・廃棄物処理費が変動している可能性が高い。本項は規則で定める客観指標(建設工事費デフレーター等)に基づき、将来の費用変動を織り込む構造である。
第4項:5年ごとの見直し:事前推計と現実とのずれを修正する調整メカニズム。事業期間中に複数回の見直し機会を確保する。
第5項:FIT積立との充当(二重取り回避):FIT積立を行っている事業者が本条の積立を二重に行う事態を避けるため、FIT積立額を本条の積立金の一部に充当することを認める。ただし、充当上限を本条算定額の2分の1とすることで、FIT積立が不十分な場合のバッファを条例側で確保する。
第6項:年次の残高報告:事業期間中の積立金の維持状況を行政が継続的に確認する規定。
実務上の留意点:規則で定める物価上昇率は、直近10年間の建設工事費デフレーターの平均上昇率等の客観指標に基づくことが望ましい。第2項第2号の「いずれか高い方」の判断については、直近の処分場・リサイクル施設の実勢価格を参考とする運用ガイドラインを整備すべきである。
※ 太陽光発電設備の廃棄については、2026年6月公布の太陽電池廃棄物再資源化推進法の下で全国レベルの制度も整備されつつある。詳細は解説記事「太陽光パネルは、役目を終えた後どこへ行くのか」を参照。
関連条項:第18条の2(履行担保の確保)、第18条の3(原状回復の履行確保)、第20条の7(廃止届出・撤去計画)
第18条の2(履行担保の確保)
条文
第18条の2 事業者は、第18条第1項に規定する廃棄等費用に係る原状回復義務その他本条例に基づく義務の履行を確保するため、次の各号に掲げる方法のいずれか一以上により、第18条第2項に規定する廃棄等費用積立金の額を限度として、必要な担保を確保しなければならない。
(1) 履行保証保険への加入 (2) 金融機関による保証 (3) 事業者が法人である場合における親法人(会社法第2条第4号に規定する親会社をいう。)その他の関係法人による保証 (4) 事業者が法人である場合における当該法人の代表者(代表者が複数あるときはそのうち1人以上)の連帯保証 (5) 前各号に掲げるもののほか、町長(市長・知事)が原状回復の履行確保に十分と認める方法
2 前項の担保は、当該事業者が原状回復を完了し、町長(市長・知事)がこれを確認するまでの間、その効力を維持しなければならない。
3 事業譲渡、会社分割、合併その他の事由により事業者の地位が承継された場合においては、承継人は、第1項の規定に基づく担保について、速やかに新たな書面を提出しなければならない。
4 第1項第4号の連帯保証をした者は、当該法人が解散し、又は破産手続開始の決定を受けた場合であっても、原状回復費用に係る債務を免れない。
逐条解説
本条は、SPC(特別目的会社)を活用した場合に責任主体が形骸化することを防止するための条項である。
SPCが事業主体となる場合、法人が解散又は破産すれば原状回復の責任主体が消滅しうる。代表者個人は有限責任の壁に守られ、親会社への追及も法人格否認の法理という高いハードルが課されている。そこで本条は、履行保証保険、金融機関保証、親法人保証、代表者連帯保証等の複数手段から事業者が選択する構造とし、事業規模・法人形態に応じた柔軟な履行担保を可能としている。
選択制とする理由:代表者個人への連帯保証を条例で一律義務化する設計は、SPC逃げ対策として有効だが、法務上の争訟リスクが高い。本条は、履行確保の目的を維持しつつ、事業者に複数の担保手段の中から適切なものを選択させることで、過度な財産権制約との批判を回避する設計とした。第5号の包括条項により、地域の実情に応じた柔軟な運用も可能である。
第1項柱書の「第18条第2項に規定する廃棄等費用積立金の額を限度として」は、担保の範囲を明確かつ予測可能なものとする趣旨であり、憲法第29条第2項の趣旨に適合する合理的な制度設計としている。第1項第4号の代表者連帯保証を選択した場合、個人根保証契約について書面による極度額の定めを要求する民法第465条の2の要件を満たし、法的に有効である。極度額の明示は、保証人保護のための民法改正(2020年4月施行)の趣旨にも適合する。
第4項は、第1項第4号の連帯保証を選択した場合の念のための明記であり、法人の解散又は破産によっても個人保証は消滅しないことを示す。
抑制区域における許可判断との関連:抑制区域における許可判断(第6条第3項)の考慮事項として、いずれの担保手段を選択したか、その内容が十分であるかを運用上の指標とすることが可能である。特に、履行保証保険又は金融機関保証を選択した場合は、保険会社又は金融機関による審査を経ているため、事業者の信用力の客観的評価として機能しうる。
法的論点:条例で履行担保の確保を義務付けることの適法性については、これは行政上の許認可の条件として担保を求める構造であり、建設業法における経営業務管理責任者の要件や産業廃棄物処理業の許可条件と同種の規制構造である。事業者は規制を受け入れて事業を行うか、行わないかの選択権を有しており、過度な財産権制限とは評価されにくい。
なお、本条の履行担保は、第18条の廃棄等費用積立金を補完する趣旨のものであり、自治体の実情、対象施設の規模、事業者の資力、事業区域の災害リスク等に応じ、規則又は許可条件により適用範囲及び担保額を調整することが望ましい。
関連条項:第18条(廃棄等費用積立金)、第18条の3(履行確保)、第6条第3項(抑制区域許可判断)
第18条の3(原状回復の履行確保)
条文
第18条の3 事業者は、対象施設の全部又は一部の運転を廃止しようとするときは、廃止の日の180日前までに、原状回復の実施計画(以下「撤去計画」という。)を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
2 撤去計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
(1) 撤去工事の施行方法及び施行期間 (2) 廃棄物の種類ごとの処理方法(リサイクル・適正処分の別を含む。) (3) 有害物質を含む部材の処理方法 (4) 土地の原状回復の方法及び完了予定時期 (5) 撤去工事を行う者の氏名又は名称及び産業廃棄物処理業の許可番号
3 町長(市長・知事)は、事業者が正当な理由なく撤去計画を提出しないとき、又は撤去計画に従って原状回復を行わないときは、第18条の2第1項の規定に基づき確保された担保の内容に応じ、保険金の請求、保証債務の履行請求その他必要な措置を講ずることができる。
4 町長(市長・知事)は、前項の場合において、担保の行使によってもなお履行が得られないときは、第18条第1項の廃棄等費用積立金を原状回復に充てるものとする。
5 事業者の所在が不明となり、又は事業者が解散し、かつ担保の行使及び廃棄等費用積立金をもってなお原状回復費用に不足するときは、町長(市長・知事)は、不足額の負担について国に対し必要な支援を求めることができる。
6 第20条の7の規定による廃止届出書は、第1項の撤去計画を具体化する詳細計画として提出するものとし、撤去計画の記載事項と廃止届出書の記載事項が重複する部分については、廃止届出書の記載をもって撤去計画の変更とみなすことができる。
逐条解説
本条は、第18条(廃棄等費用積立金)と第18条の2(履行担保)を、実際の撤去段階で機能させるための手続規定である。
撤去計画の事前提出(廃止180日前)を義務付けることで、事業者の所在が突然不明になりパネルが放置されるという事態を予防する。第2項第3号で「有害物質を含む部材の処理方法」を必須記載事項とすることで、結晶シリコン系・化合物系パネルに含まれる有害物質の適正処理を担保している。
第3項から第5項は履行確保の優先順位を定める。第一に事業者本体、第二に第18条の2に基づく担保(保険・保証等)、第三に廃棄等費用積立金、最終的には国への支援要請という四段階のセーフティネットを構成している。
第5項は条例の射程を超える領域にあたるが、理念規定として国への要請権を明記することで、条例制定自治体の政策的な意思を表明している。実際にこの条項が機能する場面は、全ての民事的回収手段が尽くされた後の最終手段であり、国レベルでの放置施設対策基金の創設等を求める政策提言の根拠にもなる。
第20条の7との関係(第6項):第6項は、本条の撤去計画(概要、廃止180日前)と第20条の7の廃止届出書(詳細、廃止90日前)を二段階手続として位置付ける接続規定である。事業者に対し、180日前時点では概要計画を、90日前時点で詳細計画(撤去計画の具体化版)を提出させることで、段階的に情報の精度を高める運用を可能とする。重複する記載事項については廃止届出書の記載で撤去計画を更新できることを明示し、事業者の二重負担を軽減している。
実務上の留意点:撤去計画の様式は規則で定める。計画提出時には、第2項第5号の処理業者の許可番号と、当該処理業者の処理可能品目との照合を行うこと。
関連条項:第18条、第18条の2、第20条の7(廃止届出)、第22条(命令)
第3章の2 維持管理(運転段階)
第19条(維持管理基準)
条文
第19条 事業者は、次に掲げる基準に従い、対象施設及び事業区域の適正な維持管理を行わなければならない。
(1) 対象施設及び事業区域は、土砂災害等の防止、水源涵養機能の維持並びに周辺地域の環境の保全に支障が生じないよう、常時安全かつ良好な状態が維持されていること。 (2) 排水施設及び調整池(第17条の4の規定により設置されたものを含む。)は、堆積土砂の除去その他の必要な措置により、設計時の排水能力が維持されていること。 (3) 事業区域の周辺において土砂災害等が発生し、又は発生するおそれがある場合は、対象施設の損壊の防止又は周辺地域への被害拡大の防止のために必要な措置が速やかに講じられること。 (4) パネル表面からの反射光、パワーコンディショナーの騒音及び低周波音が、事業区域の境界において環境省が定める基準値その他別表第2に定める基準を超えないこと。 (5) 事業区域内に植栽された広葉樹(第16条の4の規定により植栽されたものを含む。)の活着率が、植栽から3年を経過した時点で70パーセント以上であること。活着率がこれを下回る場合は、速やかに補植を行うこと。
逐条解説
本条は、対象施設の運転段階における維持管理の客観的基準を定める規定である。第3章の2「維持管理」の基本規定として、第19条の2(維持管理計画)、第20条(維持管理報告書)、第20条の2(事故報告)と一体で運用される。
第1号:常時の良好な状態維持:草木の繁茂、排水溝の閉塞、フェンスの破損等、維持管理の懈怠が安全・環境上の問題を引き起こす実例を踏まえ、土砂災害防止、水源涵養機能の維持、環境保全の三観点から「常時安全かつ良好な状態」を求めている。
第2号:排水施設・調整池の機能維持:第17条の4に基づき設置された排水施設・調整池が、設計時の能力を維持し続けることを義務付ける。堆積土砂の除去等の通常の維持管理を求めるものである。
第3号:災害時の被害拡大防止:豪雨・地震・台風等の災害時に、施設自体の損壊及び周辺地域への被害拡大を防止する措置を求める規定。具体的内容は第19条の2の維持管理計画で定める。
第4号:反射光・騒音・低周波音の基準値遵守:環境省が定める基準値(騒音規制法、低周波音問題対応の手引書の参照値等)及び別表第2に定める基準を遵守させる規定である。
第5号:広葉樹活着率70%の維持:第16条の4に基づく代償植林が形骸化することを防ぐため、植栽から3年経過時点での活着率70%を求める。下回る場合は補植義務を課す。第26条の2の地下水涵養林整備基金との連動により、地域の森林機能を実質的に維持する仕組みである。
関連条項:第16条の4(代償植林)、第17条の2(離隔距離)、第17条の3(傾斜地設置制限)、第17条の4(排水施設・調整池)、第19条の2(維持管理計画)、第20条(維持管理報告書)、第20条の2(事故報告)
第19条の2(維持管理計画の作成・公表)
条文
第19条の2 事業者は、対象施設の運転を開始する日までに、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した維持管理計画を作成しなければならない。
(1) 維持管理責任者の氏名又は名称、住所及び連絡先 (2) 維持管理の実施体制(委託する場合はその委託先の氏名又は名称及び連絡先を含む。) (3) 月次点検及び年次点検の時期、内容及び方法 (4) 排水施設及び調整池の清掃・点検の計画 (5) 植栽樹木の管理計画 (6) 災害時の応急措置及び連絡体制(地域住民等及び町長(市長・知事)への通報方法を含む。) (7) 対象施設の劣化診断の方法及び時期 (8) 事業終了後の施設撤去及び土地の原状回復の方法及び時期
2 事業者は、前項の規定により計画を作成したときは、規則で定めるところにより、インターネットの利用その他地域住民等が容易に知り得る方法によりこれを公表しなければならない。
3 前各項の規定は、維持管理計画を変更した場合に準用する。事業者は、維持管理計画を変更したときは、速やかに変更後の計画を町長(市長・知事)に届け出るとともに、前項の規定により公表しなければならない。
逐条解説
第19条の2では、維持管理基準を遵守するための具体的計画の作成と公表を事業者に義務付けている。
第1項:計画記載事項の網羅性:維持管理責任者の特定、点検計画、排水施設・植栽の管理、災害時対応、劣化診断、撤去計画の8項目を必須記載事項とした。これは山梨県条例第18条等の先行例を踏まえ、運転段階のリスクを網羅的に管理する設計である。
第2項:公表義務:地域住民等が容易に知り得る方法による公表を義務付けることで、住民監視の実効性を確保する。インターネット公表が原則だが、紙媒体での縦覧等も「容易に知り得る方法」に含まれる。
第3項:変更時の届出・公表:計画変更時にも届出と公表を求めることで、維持管理計画の形骸化を防ぐ。
事業承継時の取扱い:第3章の3(事業の承継)の規定により、承継人は承継の日から60日以内に新たな維持管理計画を作成・公表しなければならない(第20条の4第2項)。
関連条項:第19条(維持管理基準)、第19条の3(条件付き採用事項の遵守義務)、第20条(維持管理報告書)、第20条の2(事故報告)、第20条の4(承継人の義務)
第19条の3(条件付き採用事項の遵守義務並びに変更及び撤回) ※新設
条文
第19条の3 事業者は、第15条第2項第2号の規定により条件付き採用と区分された事項のうち、同条第3項第2号の基準により条件が成就したものについて、次に掲げる事項を遵守しなければならない。 (1) 当該事項に係る対策を、事業計画書、維持管理計画(第19条の2)及び年次報告書(第20条)に記載すること。 (2) 当該対策を、事業計画書、維持管理計画その他町長(市長・知事)に提出した書面に記載された内容、方法及び時期に従って履行すること。
2 前項第1号の記載義務違反と、同項第2号の履行義務違反は、それぞれ別個の違反行為として、第21条以下の措置の対象となる。
3 前項の措置の対象となる条件付き採用事項は、当該事業との合理的関連性を有し、その内容、履行主体、履行時期及び履行確認方法が具体的に特定されているものに限る。合理的関連性は、見解書の提出段階及び措置の対象化の段階のそれぞれにおいて判断する。
4 事業者は、条件付き採用事項について、次の各号のいずれかに該当するときは、その事実、理由及び履行状況を町長(市長・知事)に届け出なければならない。 (1) 条件が成就しなかったとき。 (2) 事業者以外の者が履行すべき事項について履行がなかったとき。 (3) 法令の改正、天災地変その他事業者の責めに帰することができない事由により、対策の履行が客観的に不可能となったとき。
5 事業者は、条件付き採用事項に係る対策を変更し、若しくは同等以上の効果を有する代替措置に置き換え、又は当該事項を撤回しようとするときは、変更、代替又は撤回を必要とする客観的かつ合理的な理由及びその内容を示して、町長(市長・知事)に申請しなければならない。
6 町長(市長・知事)は、前項の申請を受けたときは、必要に応じて関係する住民の意見を聴いた上で、申請を受けた日から60日以内に、その可否を決定し、結果及び理由を書面により事業者に通知するものとする。
7 前項の通知に際しては、行政不服審査法その他関係法令の定めるところにより、必要な教示を行うものとする。
8 町長(市長・知事)は、第4項第3号の届出に係る事由が客観的資料により一応認められるときは、当該届出に係る事実の確認又は第6項の決定が行われるまでの間、当該履行不能部分について第21条以下の措置を停止することができる。
9 町長(市長・知事)は、条件付き採用事項を第21条以下の措置の対象としようとするときは、あらかじめ当該事項の内容及び履行状況の疑義を事業者に通知し、書面により意見を述べる機会を与えなければならない。
10 事業者は、条件付き採用事項に係る対策の履行状況を、年次報告書の一部として町長(市長・知事)に報告しなければならない。町長(市長・知事)は、当該報告の内容を住民が閲覧できるよう公表するものとする。ただし、個人情報、第三者の権利利益を害する情報又は正当な利益を害するおそれのある営業上若しくは技術上の秘密については、この限りでない。
逐条解説
本条は、条例独自の許可制を採らない現行構造の中で、条件付き採用事項の遵守を条例上の作為義務として独立条で新設するものである。第1項の主語を「条件が成就したもの」とすることで、条件成就前の履行義務発生を回避する。第2項で記載義務違反と履行義務違反を分離し、勧告・命令段階で求める是正内容が異なることを条文上明確化する。第3項後段で合理的関連性の二重判断(見解書段階と措置対象化段階)を明記し、事情変更への対応を担保する。
第4項と第5項の分離が本条の核心設計:第4項は「事実の届出」(成就しなかった/第三者が履行しなかった/履行が客観的に不可能)に純化し、第5項は「変更・代替・撤回の申請」を独立させる。第6項の可否決定は届出とは別に、申請の合理性・相当性を町長が実質判断する構造である。第7項の教示規定で行政不服審査ルートへ接続する。第8項の暫定停止は、第4項第3号の届出事実の確認又は第6項の決定のいずれかが行われるまでの一時的な措置であり、事実届出のみで完結する場合は事実確認の完了時点で暫定停止が終了する。第9項の措置対象化前の意見聴取は、不利益処分の明確性の原則と適正手続の要請を条例本体で担保するものである。
命令の直接要件として「通常の判断能力を有する者が適用の有無を判断できる基準」(徳島市公安条例事件の枠組み)を満たすため、第1項第2号は「事業計画書等に記載された内容、方法及び時期に従って履行する」と客観的文言で規定している。
関連条項:第15条(見解書)、第19条の2(維持管理計画)、第20条(年次報告書)、第21条〜第24条(勧告・命令・公表・通報)
第20条(維持管理報告書)
条文
第20条 事業者は、毎事業年度の終了後90日以内に、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した維持管理報告書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
(1) 前事業年度における点検の実施結果 (2) 排水施設の状態及び調整池の堆砂状況 (3) 事業区域内の植生回復状況(広葉樹活着率を含む。) (4) パネルの出力低下率及び劣化の状況 (5) 事故又は苦情の発生状況及びその対応 (6) 第18条の規定による廃棄等費用積立金の積立状況 (7) その他規則で定める事項
2 町長(市長・知事)は、前項の報告の内容を精査し、第19条の維持管理基準又は第19条の2の維持管理計画に適合していないと認めるときは、事業者に対し、必要な改善措置を講ずるよう求めることができる。
3 事業者が正当な理由なく第1項の報告書を期限内に提出しないとき、又は2事業年度連続して提出しないときは、町長(市長・知事)は第21条の規定による勧告をすることができる。
逐条解説
ここでは、第19条(維持管理基準)及び第19条の2(維持管理計画)の遵守状況を、事業者に毎年度報告させる仕組みを定めている。長期間(20〜30年)にわたる発電事業の全期間を通じた行政の継続的監視を可能とする。
第1項:報告事項の網羅性:従来の概括的な「維持管理の状況」報告を、点検結果・排水状況・植生回復・出力低下率・事故苦情対応・廃棄等費用積立状況の6項目に明確化した。報告の形骸化を防ぎ、運転段階のリスクを行政が継続的に把握する基盤となる。
第2項:改善措置要求:報告内容が基準・計画に適合しない場合、町長は改善措置を求めることができる。本項に基づく要求に従わない場合、第21条の勧告に進む。
第3項:未提出への対応:報告書の期限内未提出又は2事業年度連続未提出を、第21条の勧告の端緒として明記する。報告義務の懈怠を放置する事態を防ぐ趣旨である。
実務上の留意点:報告様式は規則で詳細を定める。電子的な報告システムの活用により、行政の事務負担を軽減することが望ましい。
関連条項:第18条(廃棄等費用積立金)、第19条(維持管理基準)、第19条の2(維持管理計画)、第21条(勧告)、第26条(立入調査)
第20条の2(事故報告)
条文
第20条の2 事業者は、対象施設について次に掲げる事態が生じたときは、直ちにその旨を町長(市長・知事)に報告するとともに、被害の拡大を防止するために必要な応急措置を講じなければならない。
(1) 対象施設の損壊、倒壊又は飛散 (2) 事業区域からの土砂の流出 (3) 排水施設又は調整池の損壊による浸水被害 (4) その他周辺地域の環境又は住民の安全に重大な影響を及ぼし、又は及ぼすおそれのある事態
2 事業者は、前項の報告を行った日から30日以内に、規則で定めるところにより、事故の原因、被害の状況、応急措置の内容、再発防止策その他規則で定める事項を記載した詳細報告書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
逐条解説
第20条の2では、運転段階における対象施設の事故発生時の即時報告と応急措置の義務を定めている。第16条の3(災害時の応急措置及び届出義務)が地震・風水害等の自然災害を契機とする規定であるのに対し、ここでは施設自体の事故(損壊・倒壊・飛散等)を中心に、対象施設の特性に応じた事故報告制度を整備している。
第1項:即時報告と応急措置の二重義務:事故発生時には町長への即時報告と現場での応急措置の双方が必要となるため、二段の義務を明記している。
第2項:30日以内の詳細報告:事故の原因究明と再発防止策の検討を担保するため、事後の詳細報告を求める規定。第16条の3の災害時応急措置と同様の二段階構造である。
第20条の2の2との役割分担:本条は、対象施設の損壊、倒壊、飛散、土砂の流出、浸水被害その他物理的損壊を起点とする事故に対応する条項である。対象施設の稼働に起因する非災害的な影響(騒音、施設の稼働に伴う音、風車の影、電波障害、水質の変化その他これらに準ずるもの)は、時間軸及び証明構造が異なるため、第20条の2の2の調査ループにおいて処理する。
関連条項:第16条の3(災害時の応急措置)、第19条(維持管理基準)、第20条の2の2(稼働起因の影響)、第21条(勧告)、第22条(命令)
第20条の2の2(稼働起因の影響に係る調査及び措置) ※新設
条文
第20条の2の2 町長(市長・知事)は、住民からの申出その他の情報に基づき、客観的資料に照らし、対象施設の稼働と、周辺地域又は景観・生活環境影響地域の住民の生活環境若しくは健康への影響(騒音、当該施設に起因する音、風車の影、電波障害、水質の変化その他これらに準ずるものをいう。以下同じ。)との間に合理的な関連があると認めるときは、事業者に対し、その理由、調査事項、調査方法及び期限を書面で示して、当該影響に係る測定又は調査を求めることができる。
2 前項の合理的な関連の有無を判断するに当たって考慮すべき事項は、規則で定める。この場合において、規則には、事業及び影響の性質に応じ、次に掲げる事項を定めるものとする。 (1) 苦情の発生日、時間帯及び施設の稼働状況 (2) 稼働時と停止時の測定結果の比較 (3) 測定位置及び測定期間 (4) 気象、風況その他の環境条件 (5) 暗騒音、既存水質その他の背景状況 (6) 他の発生源の有無 (7) 再現性の有無 (8) 国の指針及び標準的な測定方法との整合
3 事業者は、第1項の求めがあったときは、正当な理由がない限り、示された期限内に、専門的知見に基づく測定又は調査を実施し、その結果を町長(市長・知事)に報告しなければならない。
4 町長(市長・知事)は、前項の測定若しくは調査の結果、当該影響と対象施設の稼働との間に合理的な関連があり、かつ、影響を低減する必要があると認めるときは、あらかじめ事業者に意見を述べる機会を与えた上で、関係法令に抵触しない範囲で、次に掲げる措置のうち、影響の内容及び程度に応じて必要かつ相当なものを、書面によりその内容、理由及び実施期限を示して求めることができる。 (1) 追加的な測定又は継続監視 (2) 設備の調整、防音、遮蔽その他設備上の改善 (3) 運転時間の調整又は特定の条件下における運転方法の調整 (4) 排水、水質保全その他環境保全設備の改善 (5) 前各号に準ずる影響低減措置
5 事業者は、前項の求めに従って講じた低減措置の実施状況を、町長(市長・知事)に報告しなければならない。
6 町長(市長・知事)は、第3項の測定若しくは調査又は前項の実施状況の結果の概要を、申出をした住民に通知するとともに、生活環境の保全上必要があると認める範囲で公表するものとする。
7 前項の通知に当たっては、当該通知を受ける者以外の者の個人情報及び健康に関する情報、正当な利益を害するおそれのある営業上若しくは技術上の秘密又は対象施設の保安上の情報を除くものとする。
8 第6項の公表に当たっては、個人情報、健康に関する情報、正当な利益を害するおそれのある営業上若しくは技術上の秘密又は対象施設の保安上の情報を除くものとする。
9 事業者は、対象施設の稼働に起因する影響を訴えて申出をした住民との協議に、誠実に応ずるよう努めなければならない。
10 前項の努力義務違反は、第21条から第23条までの措置の直接の対象としない。
11 町長(市長・知事)は、必要があると認めるときは、事業者及び申出をした住民に対し、協議のあっせんその他必要な調整を行うことができる。
12 町長(市長・知事)は、第1項から第5項までの手続に必要があると認めるときは、町(市・県)の負担において、自ら測定若しくは調査を実施し、又は次の各号に掲げる要件を満たす第三者に対し、当該影響に関する独立の測定、調査又は再検証を委託することができる。この場合において、事業者は、正当な理由がない限り、施設の稼働記録その他必要な資料の提供、事業者が所有し、占有し、又は管理する施設若しくは事業区域内における測定機器の設置場所の確保その他規則で定める協力をしなければならない。 (1) 当該影響に係る分野において専門的知識及び経験を有すること。 (2) 当該事業者、関係団体及び申出をした住民のいずれとの間にも、測定、調査又は再検証の公正を害するおそれのある直接かつ重大な利害関係を有しないこと。 (3) その他規則で定める要件を満たすこと。
13 前項の再検証は、次のいずれかに該当するときに発動することができる。 (1) 第3項の測定若しくは調査の結果に、事業者又は申出をした住民から合理的な疑義が申し立てられたとき。 (2) 町長(市長・知事)が測定・調査の方法又は結果に重大な問題があると認めるとき。 (3) その他規則で定めるとき。
14 第12項の再検証の結果と第3項の測定若しくは調査の結果とが食い違う場合において、町長(市長・知事)は、いずれの結果を採用するか、又は追加の測定・調査を求めるかを判断しようとするときは、あらかじめ事業者及び申出をした住民に対し、双方の結果を示し、意見を述べる機会を与えなければならない。町長(市長・知事)は、その判断及び理由を書面により事業者及び申出をした住民に通知するものとする。
逐条解説
本条は、対象施設の稼働に起因する非災害的な影響(正常稼働中の環境影響)を捕捉する制度である。第20条の2(事故報告)が物理的損壊起点の事故に対応するのに対し、本条は騒音・風車の影・電波障害・水質変化等の稼働起因影響を、住民申出+町長認定の二段起動で扱う。第2項は「判断基準」ではなく「考慮すべき事項」とすることで、事案に応じた柔軟な運用を可能にする。第4項の「関係法令に抵触しない範囲で」は、電気事業法その他の上位制度との正面衝突を回避するセーフガードである。低減措置の類型を5号に限定列挙し、恒久的な全面停止・出力抑制は含めない(急迫危険は既存の緊急命令ルートで処理する)。
第6項〜第8項の分離設計:申出人本人には本人に関する情報を通知でき、共同申出人相互の情報は保護し、一般公開では健康情報等を伏せる構造とする。第10項が本条のもう一つの核心:協議応諾努力義務違反を第21〜23条の対象から明示的に除外し、事実上の義務化を回避する。代わりに第11項で町長の調整・あっせん権限を置き、非強制の場を提供する。
第12項の測定機器設置場所は、事業者の支配領域内に限定する。本項は、町長(市長・知事)が公有地において測定し、又は土地所有者若しくは占有者の承諾を得て事業区域外で測定することを妨げるものではない(生活環境への影響は住宅地その他事業区域外で測定を要することがあるため)。この場合の測定地点の選定は、環境省の測定マニュアルその他の公的な指針を参考として行う。第13〜14項の独立再検証は、事業者一次調査への依存+町の独立検証権限+第三者再検証の三層構造で、本条全体の客観性を強化する。
関連条項:第2条(定義)、第11条(環境影響調査)、第20条の2(事故報告)、第21条〜第23条(勧告・命令・公表)
第3章の3 事業の承継
第20条の3(事業承継の届出)
条文
第20条の3 第9条の規定により事前協議を経た者又は第10条の規定により計画書を提出した者(以下この章において「事業者」という。)について、当該対象施設に係る事業の全部の譲渡があったとき、又は事業者について相続、合併若しくは分割(当該事業の全部を承継させるものに限る。)があったときは、当該事業の全部を譲り受けた者又は相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立した法人若しくは分割により当該事業の全部を承継した法人(以下この章において「承継人」という。)は、承継の日から30日以内に、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した事業承継届出書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
(1) 承継人の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名 (2) 承継の原因(譲渡、相続、合併又は分割の別)及びその年月日 (3) 被承継人の氏名又は名称 (4) 対象施設の所在地、出力及び事業区域の面積 (5) 承継人の資力及び信用に関する事項として規則で定めるもの (6) 第18条の規定による廃棄等費用積立金の承継に関する事項
2 前項の届出書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
(1) 承継の事実を証する書類(売買契約書、遺産分割協議書、合併契約書又は分割計画書の写し) (2) 承継人の登記事項証明書(法人の場合)又は住民票の写し(個人の場合) (3) 直前3事業年度の維持管理報告書の写し(被承継人が提出したもの) (4) 廃棄等費用積立金の残高証明書
逐条解説
資本関係が不透明な法人若しくは実体を伴わない法人等を介した事業転売により責任主体が形骸化することを防ぐための条項である。宮城県条例第13条等の先行例を踏まえ、承継時の届出と承継人の資力・信用情報の提出を義務付けることで、放置パネル問題につながりうる承継過程における責任主体の不明確化を構造的に防ぐ。
第1項第5号:資力・信用情報:承継人が長期にわたる維持管理及び撤去責任を全うできる主体であることを行政が確認するための情報である。具体的項目は規則で定める。
第1項第6号:廃棄等費用積立金の承継:第18条の積立金が承継人に確実に引き継がれることを担保する規定で、承継時の積立金消失を防ぐ趣旨である。
関連条項:第18条(廃棄等費用積立金)、第18条の2(履行担保)、第20条の4(承継人の義務)、第20条の5(届出なき場合の措置)
第20条の4(承継人の義務)
条文
第20条の4 第20条の3第1項の規定により届出をした承継人は、被承継人の地位を承継する。
2 承継人は、承継の日から60日以内に、第19条の2の規定に準じて維持管理計画を作成し、同条第2項の規定により公表しなければならない。
3 承継人は、被承継人が行うべきであった維持管理報告書の提出義務その他この条例に基づく義務を承継する。
4 第18条の2第3項の規定により、承継人は、同条第1項の規定に基づく担保について、新たな書面を速やかに町長(市長・知事)に提出しなければならない。
逐条解説
本条は、承継人が被承継人の地位を全面的に承継することを明確化する規定である。
第1項:地位の承継:本条例上の届出・許可・義務関係を一括して承継する旨を確認する規定。承継時の手続を新規参入時と同等にやり直す必要を回避し、行政事務の効率化を図るものである。
第2項:維持管理計画の更新:承継人による維持管理体制の独自性を担保するため、60日以内の新計画作成・公表を求める。
第4項:履行担保の更新:第18条の2の担保は事業者に紐づくため、承継人は新たな担保書面を速やかに提出する必要がある。承継人が前事業者と異なる担保手段を選択することも妨げない。
関連条項:第18条の2(履行担保)、第19条の2(維持管理計画)、第20条(維持管理報告書)、第20条の3(事業承継届出)
第20条の5(承継の届出がない場合の措置)
条文
第20条の5 町長(市長・知事)は、対象施設について事業者の変更があったと認められるにもかかわらず第20条の3第1項の届出がなされないときは、当該施設を現に管理する者に対し、届出を行うべきことを勧告することができる。
2 前項の勧告を受けた者が正当な理由なく勧告に従わないときは、町長(市長・知事)はその旨を公表することができる。
3 前項の公表後なお届出がなされない場合において、当該対象施設が周辺地域の安全又は環境に支障を生じさせるおそれがあると認めるときは、町長(市長・知事)は第22条の規定による命令を発することができる。
逐条解説
ここでは、承継届出義務の懈怠に対する段階的措置を定めている。勧告→公表→命令という三段構えにより、許可制への接近を回避しつつ実効性を担保する。
第3項の命令違反は第25条の過料対象となるため、最終的には経済的制裁による履行確保が可能となる。
関連条項:第20条の3(承継届出)、第21条(勧告)、第22条(命令)、第23条(公表)、第25条(過料)
第20条の6(承継の届出の公表)
条文
第20条の6 町長(市長・知事)は、第20条の3第1項の規定による届出があったときは、規則で定めるところにより、承継人の氏名又は名称、対象施設の所在地及び出力その他規則で定める事項を公表するものとする。
逐条解説
承継後の事業者の透明性を確保するため、承継届出の主要事項を公表する規定である。地域住民が承継後の事業者の所在を把握し、事故・苦情等の連絡先を確認できる体制を整える趣旨である。
公表事項のうち個人情報(個人住所等)の取扱いは、第9条の2第7項の規律と同様に、規則で公表範囲を限定する。
関連条項:第20条の3(事業承継届出)、第20条の4(承継人の義務)
第3章の4 廃止及び撤去
第20条の7(廃止届出及び撤去計画)
条文
第20条の7 事業者は、対象施設の運転を廃止しようとするときは、廃止しようとする日の90日前までに、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した廃止届出書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
(1) 廃止の理由及び予定年月日 (2) 対象施設の撤去計画(撤去の工法、工程、運搬先及び処分方法を含む。) (3) 事業区域の原状回復計画又は跡地利用計画 (4) 廃棄物の処理計画(産業廃棄物管理票の交付予定を含む。) (5) 第16条の4の規定による広葉樹植栽義務の履行状況及び残余の措置 (6) 第18条の規定による廃棄等費用積立金の充当計画
2 町長(市長・知事)は、前項の届出書の内容が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、事業者に対し、撤去計画の変更を勧告することができる。
(1) 撤去の工法又は工程が周辺地域の安全又は環境に支障を生じさせるおそれがあるとき。 (2) 原状回復計画が水源涵養機能の回復又は農地としての利用に著しく不十分であるとき。 (3) 廃棄物の処理計画が廃棄物の処理及び清掃に関する法律その他の関係法令に適合しないおそれがあるとき。
逐条解説
第20条の7では、対象施設の運転廃止段階における事業者の届出義務を定めている。第18条の3(原状回復の履行確保)の撤去計画提出義務(廃止180日前)より短期の届出(90日前)を別途求めることで、廃止予定がより明確になった段階での詳細計画の確認を可能とする。
第1項:廃止届出の網羅性:撤去計画、原状回復計画、廃棄物処理計画、植栽義務の履行状況、積立金の充当計画を一体的に確認する設計である。
第2項:勧告事由:撤去工法の不適切性、原状回復の不十分さ、廃棄物処理の法令不適合という3類型に勧告事由を明確化する。
実務上の留意点:第18条の3の撤去計画(180日前)と本条の廃止届出(90日前)は併存する。実務上は、180日前の撤去計画提出時点では概要、90日前の廃止届出時点で詳細を確定する二段階運用が想定される。
関連条項:第16条の4(代償植林)、第18条(廃棄等費用積立金)、第18条の3(履行確保)、第20条の8(撤去完了届出)
第20条の8(撤去の完了届出及び検査)
条文
第20条の8 事業者は、対象施設の撤去を完了したときは、完了の日から30日以内に、規則で定めるところにより、撤去完了届出書を町長(市長・知事)に提出しなければならない。
2 町長(市長・知事)は、前項の届出書の提出があったときは、速やかに事業区域の現地検査を行い、次に掲げる事項を確認するものとする。
(1) 対象施設(基礎を含む。)が全て撤去されていること。 (2) 事業区域が原状回復計画又は跡地利用計画に適合する状態に復していること。 (3) 排水施設及び法面が安全な状態にあること。 (4) 第三者への環境上の被害が生じていないこと。
3 町長(市長・知事)は、前項の検査の結果、第1号から第4号までのいずれかに適合しないと認めるときは、事業者に対し、相当の期限を定めて追加措置を命ずることができる。
4 第2項の検査に合格したとき、又は前項の追加措置が完了したときは、町長(市長・知事)は第18条の規定による廃棄等費用積立金の返還を承認するものとする。
逐条解説
本条は、撤去工事の完了確認と廃棄等費用積立金の返還を連動させる規定である。完了検査に合格しない限り積立金は返還されない構造とすることで、事業者に完全な原状回復を促す。
第2項各号の確認事項:基礎の完全撤去(パイル基礎が地中に残されると将来の土地利用を阻害する)、原状回復計画への適合、排水・法面の安全性、第三者被害の不存在の4観点から確認する。
第4項:積立金返還の承認:返還承認は町長の権限とすることで、検査未了のままの返還を構造的に防ぐ。
関連条項:第18条(廃棄等費用積立金)、第18条の3(履行確保)、第20条の7(廃止届出)
第20条の9(管理不全施設に対する措置)
条文
第20条の9 町長(市長・知事)は、対象施設が次に掲げる状態にあると認めるときは、当該施設の事業者(事業者が不明又は不存在の場合は、当該施設が所在する土地の所有者。以下この条において同じ。)に対し、相当の期限を定めて、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
(1) 発電の用に供されなくなった日から1年以上を経過し、かつ、撤去その他の措置が講じられていないとき。 (2) パネルの破損、架台の腐食又は傾斜その他構造上の欠陥により、周辺地域に被害を及ぼすおそれがあるとき。 (3) 事業区域から土砂が流出し、又は流出するおそれが明らかに認められるとき。 (4) 排水施設の閉塞その他の機能低下により、周辺地域に浸水被害を生じさせるおそれがあるとき。
2 前項の勧告を受けた者が正当な理由なく勧告に従わないときは、町長(市長・知事)はその旨を公表することができる。
3 町長(市長・知事)は、前項の公表後もなお正当な理由なく必要な措置が講じられず、かつ、周辺地域の安全又は環境に対する支障が著しいと認めるときは、当該事業者に対し、相当の期限を定めて、当該措置を講ずべきことを命ずることができる。
4 町長(市長・知事)は、前項の命令に違反した者に対し、第25条の規定により過料を科することができる。
逐条解説
本条は、運転終了後に放置された対象施設(いわゆる放置パネル)に対する行政の段階的な措置を定める規定である。発電の停止から1年経過後の状態を「管理不全」と認定し、勧告→公表→命令→過料の四段階で履行確保を図る。
第1号:1年経過の基準:定期的なメンテナンスの間隔、季節要因等を考慮した最小限の期間として設定。
第2号〜第4号:物理的危険性の認定:パネル破損、土砂流出、排水機能低下等の客観的事象に基づく認定により、行政の恣意的判断を排除する。
事業者不明の場合の土地所有者責任:事業者が不明・不存在の場合、土地所有者を措置の対象とする。これは民法上の所有者責任(工作物責任)の延長として位置付けられる。
関連条項:第20条の10(事業者不明時の略式代執行)、第21条(勧告)、第22条(命令)、第25条(過料)
第20条の10(事業者不明の場合の略式代執行)
条文
第20条の10 第20条の9第1項各号に掲げる状態にある対象施設について、事業者を確知できないとき(不動産登記簿、住民基本台帳、法人登記簿その他利用可能な公簿の調査、現地調査及び近隣住民への聴取その他の相当の調査を行ってもなお事業者又は土地所有者の所在が判明しないときを含む。)は、町長(市長・知事)は、その旨及び講ずべき措置の概要を公告し、公告の日から3月を経過してもなお措置が講じられないときは、自ら当該措置を行い、又はその命じた者若しくは委任した者に行わせることができる。
2 町長(市長・知事)は、前項の措置を行おうとするときは、あらかじめ、その内容及び費用の見込額を議会に報告するよう努めるものとする。
3 第1項の場合において要した費用は、当該対象施設の事業者又は土地所有者の負担とする。
4 第1項の費用は、地方自治法第231条の3第3項の規定により、地方税の滞納処分の例により徴収することができる。
逐条解説
本条は、事業者が確知できない放置施設に対し、行政代執行法その他の関係法令の趣旨を踏まえた措置を講ずるための手続を定める規定である。空家等対策の推進に関する特別措置法における事業者不明時の措置手続を参考に、放置パネル問題に対応する仕組みを整備する。
【強化版規定としての位置付け】 本条は、放置施設が周辺住民の安全又は環境に重大な支障を及ぼす場合に備えた強化版規定である。導入に当たっては、各自治体の行政代執行条例、空家対策条例その他既存制度との整合を確認し、顧問弁護士及び法制担当部局による個別審査を経ることが望ましい。
【法務上の留意点】 略式代執行を条例のみで独自に創設できるかについては、行政代執行法、地方自治法、財産権保障との関係で慎重な検討を要する。空家特措法では法律上の根拠が明確であるが、条例で類似制度を置く場合、「行政代執行法その他の関係法令に基づき必要な措置を講ずることができる」という表現にとどめる方が法務上安定する。自治体の法務体制に応じて条文表現を調整されたい。
第1項:発動要件:「相当の調査」の内容を括弧書で具体的に列挙(不動産登記簿、住民基本台帳、法人登記簿等の公簿調査、現地調査、近隣住民への聴取)し、行政が十分な探索を尽くしたことを事後的に検証可能とする設計とした。公告には講ずべき措置の概要を含めることで、事業者又は土地所有者が後から名乗り出た場合の措置内容の予見可能性を担保する。3か月の公告期間は、空家特措法の手続を参考にした最小限の期間である。
第2項:議会報告:略式代執行は公費の支出を伴うため、議会への報告を努力義務として設けている。これは行政の説明責任を確保する手続的保障である。
第3項:費用負担:撤去費用は事業者又は土地所有者の負担とする。後日、事業者が判明した場合の費用回収の根拠となる。
第4項:徴収方法:地方自治法第231条の3第3項の根拠により、地方税滞納処分の例による徴収を可能とする。これにより、撤去費用の実効的な回収を図る。
関連条項:第20条の9(管理不全施設措置)、第22条(命令)
第4章 行政の措置
第21条(勧告)
条文
第21条 町長(市長・知事)は、事業者がこの条例又はこの条例に基づく規則の規定に違反し、又は違反するおそれがあると認めるときは、当該事業者に対し、期限を定めて、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
2 前項に定めるもののほか、町長(市長・知事)は、事業者が第20条の2の2第3項若しくは第5項の義務に違反したとき、又は同条第4項の書面により求められた低減措置を正当な理由がなく実施しないときは、当該事業者に対し、期限を定めて、当該書面により求められた測定、調査若しくは低減措置を実施し、又は必要な報告を行うよう勧告することができる。
3 町長(市長・知事)は、前2項の勧告を行おうとするときは、あらかじめ、当該事業者にその理由を通知し、弁明の機会を与えなければならない。
逐条解説
勧告は行政指導の一類型であり、法的拘束力はないが、事業者に対する公式の警告として機能する。第22条の命令、第23条の氏名公表、第24条の経産省通報に至る段階的エスカレーションの第一段階を構成する。弁明の機会の付与(第3項)は行政手続の適正を担保するものである。第2項は、第20条の2の2の調査ループから接続する勧告ルートであり、稼働起因の非災害的影響への対応を通常の勧告・命令ルートで扱うための端緒規定である。
実務上の留意点:勧告に従わないこと自体は罰則の対象とならないが、勧告を無視して違反を継続した場合は、命令→氏名公表→経産省通報という段階的措置に進むことを事業者に明確に告知すべきである。
関連条項:第20条の2の2(稼働起因の影響)、第22条(命令)、第23条(氏名公表)、第24条(経産省通報)
第22条(命令)
条文
第22条 町長(市長・知事)は、前条第1項の勧告を受けた事業者が正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、当該事業者に対し、期限を定めて、当該勧告に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。
2 町長(市長・知事)は、対象施設又はその工事が住民の生命、身体又は財産に対する重大かつ急迫の危険を生じさせていると認めるときは、前条の勧告を経ないで、直ちに事業者に対し必要な措置を命ずることができる。
3 町長(市長・知事)は、前条第2項の勧告を受けた事業者が正当な理由なく当該勧告に従わないときは、必要かつ相当な限度において、期限を定めて、当該勧告に係る測定、調査若しくは低減措置を実施し、又は報告を行うべきことを命ずることができる。
4 町長(市長・知事)は、前項の命令をしようとするときは、あらかじめ、次に掲げる事項を事業者に通知し、相当の期間を定めて、意見及び証拠を提出する機会を与えなければならない。 (1) 予定する命令の内容 (2) 命令の根拠となる本条例の条項 (3) 命令の原因となる事実 (4) 意見及び証拠の提出期限
5 町長(市長・知事)は、事案の重大性、事業者の対応状況その他の事情を考慮し、必要があると認めるときは、前項に定めるもののほか、口頭で意見を述べる機会を与えることができる。
6 第4項及び第5項の規定による機会の付与は、次項の聴聞の手続において、これらと同等以上の意見陳述及び証拠提出の機会を保障することにより行うことができる。前2項の規定は、町(市・県)の行政手続条例により、これらの規定を上回る手続保障が必要とされる場合における当該手続の適用を妨げない。
7 町長(市長・知事)は、第1項又は第3項の命令をしようとするときは、本町(市・県)行政手続条例の規定による聴聞を行わなければならない。
8 前項の規定にかかわらず、第2項の規定による命令その他公益上緊急に命令を発する必要がある場合は、聴聞を行わないで命令を発することができる。この場合において、町長(市長・知事)は、命令の発出後、相当の期間内に当該事業者に対し弁明の機会を付与しなければならない。
逐条解説
命令は法的拘束力を有する行政処分であり、これに違反した場合は第25条の過料の対象となり得る。第2項は緊急時の即時命令権を定め、台風・地震等で施設が崩壊の危険にある場合等に迅速な対応を可能とする。
行政手続条例による聴聞:地方公共団体の機関が条例に基づいて行う処分には国の行政手続法第3章は適用されない(行政手続法第3条第3項)。各自治体が独自に制定する行政手続条例の規定により聴聞を行う必要があるため、本条第7項では「本町(市・県)行政手続条例の規定による聴聞」と定めている。多くの自治体の行政手続条例は国の行政手続法と同等の聴聞手続を定めているが、運用に当たっては当該自治体の条例を直接参照すること。
緊急命令と聴聞の整合:第7項本文で第1項又は第3項の通常命令について聴聞を必須とし、第2項の緊急命令その他公益上緊急の場合を第8項で聴聞義務の対象から除外している。聴聞には事前通知・期日確保の時間を要するため、住民の生命・身体・財産への重大かつ急迫の危険に対応する緊急命令とは論理的に両立しない。第8項により、緊急命令の場合も発出後の事後的な弁明機会を保障し、適正手続(憲法第31条)の趣旨を担保している。
第3項命令ルートと第20条の2の2の接続:本条第3項は、第20条の2の2の調査ループから接続する通常命令ルートである。第21条第2項の勧告経由で、稼働起因の非災害的影響への対応を通常命令ルートで扱う。急迫危険は本条第2項の緊急命令で処理する役割分担を維持する。
第4項・第5項の手続と聴聞の関係:本条第4項・第5項は、命令前の書面による意見・証拠提出手続を条例本文で自己完結型に整備したものである。第7項の聴聞と重複実施することを避けるため、本条第6項により、聴聞の手続において第4項・第5項と同等以上の意見陳述及び証拠提出の機会を保障する場合は、第4項・第5項の手続を聴聞の中で完了させることができる。事案の重大性又は事業者の希望により、書面手続と聴聞を分離して実施することも妨げない。
第3項命令にも聴聞を適用:第22条第3項命令には、運転時間・運転方法の調整等が含まれ得る。第1項命令と比較して手続保障を軽視すべき理由はなく、第7項本文で第1項又は第3項の命令のいずれにも聴聞を義務付ける。第8項の緊急ルートは第2項命令その他公益上緊急に命令を発する必要がある場合に限定される。
実務上の留意点:命令書の発出に当たっては、勧告に従わなかった事実、違反の具体的内容、講ずべき措置の内容、期限を具体的に記載すること。命令書は後日の訴訟における重要な証拠資料となる。
関連条項:第20条の2の2(稼働起因の影響)、第21条(勧告)、第23条(公表)、第24条(経産省通報)、第25条(過料)
第23条(氏名又は法人名の公表)
条文
第23条 町長(市長・知事)は、前条第1項又は第3項の命令を受けた事業者が正当な理由がなく当該命令に従わないときは、規則で定めるところにより、次に掲げる事項を公表することができる。 (1) 当該事業者の氏名又は名称及び法人その他の団体にあっては主たる事務所の所在地 (2) 当該命令の内容 (3) 当該命令に従わない事実
2 町長(市長・知事)は、前項の公表を行おうとするときは、あらかじめ、公表の原因となる事実、公表しようとする内容及び公表予定日を当該事業者に通知し、14日を下回らない期間を定めて、書面により弁明し、及び証拠を提出する機会を与えなければならない。
3 町長(市長・知事)は、前項の弁明及び証拠を考慮して公表するかどうかを決定し、その結果及び理由並びに公表する場合には公表予定日を、当該事業者に書面により通知するものとする。この場合において、公表予定日は、当該通知をした日の翌日から起算して14日を経過した日以後の日としなければならない。
4 前項の決定又は第1項の公表について、行政不服審査法第82条その他関係法令の規定により教示を要するときは、当該法令の定めるところにより必要な教示を行うものとする。
5 公表期間、公表開始日、違反是正後の追記又は公表終了、公表内容に誤りがあった場合の訂正その他公表の実施に関し必要な事項は、規則で定める。
逐条解説
氏名公表は行政上の制裁措置であり、事業者の社会的信用に直接影響する。特に上場企業やESG投資を受ける事業者にとっては、過料以上の抑止力を持つ。弁明の機会の付与により手続的保障を確保している。
山形県条例第21条も命令違反時の公表規定を設けており、本条はこれに準じている。
実務上の留意点:公表は自治体のウェブサイト等で行う。公表後に事業者が違反を是正した場合の取扱い(公表の撤回の可否)については規則で定めることが望ましい。
制裁的公表の実体的要件:公表は社会的信用に重大な影響を与えるため、十分な調査に基づく真実性の確保を前提とし、調査を尽くさないまま漫然と公表しないことが求められる。あわせて、公表の目的、必要性、方法の相当性を比較衡量し、軽微な違反では公表を回避するなど段階的運用を徹底することが望ましい。個人事業者が対象となる場合は、個人情報保護の観点から、公表事項を必要最小限に限定する運用が求められる。
第1項の対象命令:第22条第1項の通常命令に加え、第22条第3項の稼働起因影響低減命令にも本条の公表対象を拡大する。
第1項第1号の個人住所削除:現行条文を踏襲していたが、今回の改正で制度を再設計するにあたり、個人事業者の自宅住所を公表する必要性は乏しいと整理した。法人・団体の主たる事務所所在地は残す。必要に応じて規則で事業区域の所在市町村名を公表できる余地は残す。
第2項の弁明機会の明確化:期間(14日下限)、方法(書面弁明・証拠提出)、通知事項(原因事実・内容・予定日)を条テキスト体に規定する。
第3項の公表予定日の14日下限:制裁的公表は事業者の社会的信用への影響が大きく、事後救済では回復困難となり得る。本項の14日下限は、公表決定通知を受けた事業者が、事実誤認の指摘、司法的救済の申立て、公表内容の訂正要請その他の対応を行うための最低猶予期間として設けたものである。7日等の短縮は自治体判断で可能だが、通知と公表を同時実施する運用は本項に反する。
第4項の教示規定の限定:制裁的公表は、一般に非権力的事実行為として整理されることもある一方、制度構造によっては行政不服審査法上の処分に該当し得る。本項は、処分性の判断を条例で断定せず、また町長の主観的認定にも委ねず、法令上教示が必要とされる場合にのみ教示を義務化する構造である。処分性が認められない場合まで教示を義務化することで、事業者に誤った救済経路を案内する事態を回避する趣旨である。
命令・公表前手続の一貫性:第22条命令に接続する氏名公表の場面では、第22条第4項の意見・証拠提出と本条第2項の弁明が連続する構造となる。実務上は、第22条第4項で提出された意見・証拠を本条第2項の弁明資料としても取り扱うことができるが、本条第2項の弁明機会そのものを省略してはならない。
関連条項:第22条(命令)、第24条(経産省通報)、行政不服審査法第82条
第24条(経済産業大臣への通報)
条文
第24条 町長(市長・知事)は、事業者がこの条例若しくはこの条例に基づく規則の規定又はこれらに基づく処分に違反し、かつ、当該事業者が再エネ特措法に基づく認定を受けている場合において、当該違反が再エネ特措法に基づく認定基準又は認定計画の遵守に関わると認められるときは、経済産業大臣に対し、違反の事実を通報するものとする。
2 前項の通報は、次に掲げる事項を記載した書面により行うものとする。 (1) 事業者の氏名又は名称、住所及びFIT/FIP認定番号 (2) 違反の内容及びこれを証する資料 (3) 自治体が講じた措置(勧告、命令、氏名公表等)の経緯 (4) 通報に係る自治体の意見
3 町長(市長・知事)は、第1項の通報を行ったときは、その旨を当該事業者に通知しなければならない。
逐条解説
本条は、条例違反に対する実効的な制裁を国法の制度を通じて確保する中核規定である。
地方自治法第14条第3項が定める罰則の上限は、2年以下の懲役・100万円以下の罰金・5万円以下の過料にとどまる。改正再エネ特措法は「関係法令(条例を含む)への違反」を、FIT/FIP交付金の一時停止(積立命令)及び認定取消の要件として位置付けている。本条例への違反が経産省に通報されれば、事業者はFIT/FIP交付金の一時停止を受け、認定取消となった場合には売電収入を失うことになる。
この「条例違反→自治体通報→経産省の積立命令・認定取消」というスキームは、地方条例の実効性を国法のエンフォースメント装置によって補完する多層構造として機能する。経済産業省が2026年4月に公表した2025年度の運用実績では、FIT/FIP交付金の一時停止57件、認定取消55件が報告されており、関係法令違反等が確認された案件について、FIT/FIP交付金の一時停止措置や認定取消しが実施されている。自治体が条例違反の事実及び資料を経産省に通報し、経産省が再エネ特措法上の認定基準・認定計画違反等に該当すると判断した場合、交付金一時停止や認定取消し等の措置につながり得る。自治体が本条例違反を通報することは、この既存の国制度の運用に接続する実務上の手段として位置付けられる。
実務上の留意点:通報は段階的措置(勧告→命令→氏名公表)を経た上で行うことが望ましい。いきなりの通報は比例原則に反し、行政訴訟で敗訴するリスクがある。通報に際しては、当該違反が再エネ特措法に基づく認定基準又は認定計画の遵守状況にどのように関係するかについて、具体的な根拠資料を整理しておくこと。経産省との事前の協議チャネルを構築しておくことも有効である。
条例違反と通報の射程:本条による経済産業大臣への通報は、条例違反が直ちに認定取消しその他の措置を生じさせるものではなく、経済産業大臣が再エネ特措法及び関係省令に基づき、違反の内容、重大性、継続性及び是正状況等を踏まえて判断するための情報提供として位置付けられる。現行の再エネ特措法及びその運用においては、条例違反は、認定計画又は認定基準と直接重複しない場合であっても、関係法令違反として、国による指導、改善命令、積立命令その他の措置の検討対象となり得る。ただし、措置の発動及び内容は経済産業大臣の判断によるため、通報による効果が個別に保証されるものではない。事業者への説明資料においては、この通報の趣旨と射程を正確に明示することが望ましい。
関連条項:第4条第2項(関係機関との連携)、第21条〜第23条(勧告・命令・氏名公表)、第25条(過料)
第25条(過料)
条文
第25条 次の各号のいずれかに該当する者は、5万円以下の過料に処する。
(1) 第8条の3第1項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者 (2) 第8条の6第1項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者 (3) 第9条第1項の規定に違反して事前協議の申入れをしないで土地開発行為に着手した者 (4) 第9条の2第1項の規定による届出をせず、若しくは虚偽の届出をした者又は同条第4項の補正に正当な理由なく応じない者 (5) 第13条第1項の規定に違反して住民説明会を開催しなかった者 (6) 第15条第1項の規定に違反して見解書を提出しなかった者 (7) 第18条第1項の規定による廃棄等費用積立金の供託又は信託を行わずに対象施設の設置の工事に着手した者 (8) 第18条の2第1項の規定による担保を確保しないで対象施設の設置の工事に着手した者 (9) 第20条第1項の規定に違反して維持管理報告書を正当な理由なく2事業年度連続して提出しなかった者 (10) 第20条の2第1項の規定による報告を怠り、又は虚偽の報告をした者 (11) 第20条の3第1項の規定による事業承継届出書を正当な理由なく提出しなかった者 (12) 第20条の9第3項の規定による命令に違反した者 (13) 第22条第1項又は第2項の規定による命令に違反した者 (14) 第26条第1項の規定による立入調査を拒み、妨げ、又は忌避した者
逐条解説
過料は地方自治法第14条第3項に基づく秩序罰であり、上限は5万円である。その効果は第24条の通報制度及び第23条の氏名公表制度と一体として評価されるべきものである。本条の意義は2つある。第一に、条例違反の事実を法的に確定させる手続的効果(過料処分→違反の事実認定→第24条の通報根拠の強化)。第二に、手続違反を放置しないという自治体の姿勢を明示する象徴的効果。
なお、地方自治法上、条例で2年以下の懲役・100万円以下の罰金を定めることも可能であるが、手続違反に対して刑事罰を科すことの比例原則上の問題があるため、本ひな型では過料にとどめている。第5条第2項違反(禁止区域での建設)については、別途刑事罰を検討する余地がある。
過料を科す主体と手続:条例に基づく過料は、地方自治法第255条の3の規定により、町長(市長・知事)が行政処分として科す。手続的には、本町(市・県)行政手続条例に定める弁明の機会を付与した上で、過料処分書を発出する。納付がない場合は、地方自治法第231条の3に基づき、地方税の滞納処分の例により徴収する(裁判所への通知や非訟事件手続法に基づく手続は、法律違反に係る過料に関するものであり、条例違反に係る過料とは制度が異なる)。
実務上の留意点:過料処分の発出に当たっては、違反事実の特定、証拠の整理、弁明の機会の付与、処分理由の記載といった行政処分の一般的要件を満たすこと。処分書は後日の不服申立て・訴訟における中核的な証拠資料となる。
関連条項:第24条(経産省通報)、第22条(命令)
第26条(立入調査)
条文
第26条 町長(市長・知事)は、この条例の施行に必要な限度において、職員に事業区域その他の関係場所に立ち入り、施設、帳簿書類その他の物件を調査させ、又は関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入調査を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第1項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
逐条解説
立入調査権は条例の実効性を支える重要な行政調査権限である。第3項は行政調査と犯罪捜査の峻別を明示する定型的規定であり、憲法第35条(住居の不可侵)との整合を図るものである。
実務上の留意点:立入調査は事前に事業者に通知して行うのが原則だが、緊急の場合は事前通知なく行うことも許容される。調査結果は記録し、後日の行政処分の根拠資料として保存すること。
関連条項:第20条(定期報告)、第22条(命令)
第26条の2(地下水涵養林整備基金)
条文
第26条の2 町長(市長・知事)は、地下水及び水源の涵養並びに森林の保全に資する事業を実施するため、地下水涵養林整備基金(以下「基金」という。)を設置する。
2 基金は、次に掲げる収入をもって積み立てるものとする。
(1) 第8条の5第6項の規定により納付された費用 (2) 第16条の4第3項の規定により納付された費用 (3) 地下水及び水源の保全を目的とする寄附金 (4) 基金の運用から生じた収益 (5) 予算の範囲内において町(市・県)の一般会計から繰り入れる額
3 基金は、次に掲げる事業に充てるものとする。
(1) 水源涵養林の植林及び保育 (2) 荒廃した森林の再生 (3) 地下水位観測井の設置及び維持管理 (4) 雨水浸透施設その他地下水涵養施設の整備 (5) 地下水及び水源の保全に関する調査及び普及啓発 (6) その他地下水及び水源の保全に資する事業
4 基金の管理及び運用に関し必要な事項は、規則で定める。
逐条解説
本条は、第8条の5(地下水涵養義務)及び第16条の4(代償植林義務)の納付制度の受け皿となる基金を設置する規定である。事業者が自ら涵養・植林を行えない場合の納付金、寄附金、町(市・県)の繰入金等を一元管理し、地域の水源涵養林の整備に充てる。
意義:個別の事業者が小規模な涵養を行うよりも、自治体が基金で集約管理する方が、計画的・継続的な水源涵養林整備が可能となる。荒廃した針葉樹人工林の広葉樹混交林化、放置林の再生など、より大きな効果を見込める事業に資金を投入できる。
先行事例:森林環境譲与税(令和元年度創設)の自治体での運用、神奈川県の「水源環境保全税」、横浜市・名古屋市の緑地保全基金等が参考となる。本条はこれらに地下水保全の視点を加えた構造である。
第3項の使途:基金は植林だけでなく、地下水位観測井(第8条の4の判断基盤となる)の整備・維持にも充てられる。これにより条例全体の運用基盤が安定する。
関連条項:第8条の5(地下水涵養)、第16条の4(代償植林)
第26条の3(地域環境保全協力金)
条文
第26条の3 事業区域の面積が5,000平方メートル以上の対象施設を設置しようとする者は、地域の環境保全に要する費用に充てるため、規則で定めるところにより、地域環境保全協力金を町(市・県)に納付するよう努めるものとする。
2 前項の協力金の額は、事業区域の面積1平方メートルにつき規則で定める金額を目安として、規則で定める。
3 町(市・県)は、第1項の規定により納付された協力金を、次に掲げる事業の財源に充てるものとする。
(1) 事業区域の周辺における水源涵養林の整備 (2) 排水施設及び農業用水路の維持管理 (3) 生物多様性の保全に資する活動 (4) 第26条の2に規定する地下水涵養林整備基金への拠出 (5) その他地域環境の保全に資する事業として規則で定めるもの
4 町長(市長・知事)は、毎年度、協力金の収支状況を公表するものとする。
逐条解説
本条は、対象施設の事業者から地域環境保全への自発的協力金を求める規定である。
努力義務型の選択:地方税法との抵触を回避するため、強制的な課税ではなく「努力義務型協力金」として設計した。宮城県の「再生可能エネルギー地域共生促進税」が課税型であるのに対し、本条は協力金型を採る。努力義務型とすることにより、地方税法との抵触を回避し、法的安定性を確保する設計としている。
法的性質(寄付金):本協力金は地方自治法第232条の2に基づく寄付金として位置付けられるものであり、負担金・分担金・手数料のような法令根拠に基づく強制徴収制度とは異なる。したがって、本条の適法性は対価性の有無のみならず、強制性を排した任意拠出の構造を維持できているかに依拠する。
地方財政法第4条の5との関係:同条は割当的寄附金の徴収を禁止しており、割当性は算定方式(面積比例等)だけでなく、実質的な強制性の有無を含めて判断される。本条が同規定に抵触しないためには、①努力義務にとどめること、②納付の有無を許可・届出受理その他の行政手続に連動させないこと、③不利益取扱いを示唆しないこと、を運用上徹底することが必要である。
対価性を否定する運用整理:本協力金は、特定の行政サービスや許認可の対価として徴収するものではなく、地域環境保全一般に充てる自発的拠出金である。協力金の納付と本条例上の許可・認定・届出等の手続は法的に連動しておらず、協力金の納付の有無は、第6条第3項の許可又は不許可の判断において、直接の判断要素としては取り扱わない。許可判断は、あくまで災害防止、水源保全、生物多様性保全、景観、住民説明その他本条例に定める実体的・手続的基準に基づいて行うものとする。
5,000平方メートル以上の閾値:小規模分散型施設への配慮として、一定規模以上の事業のみを対象とする。第28条(適用除外)の小規模・自家消費型との整合を図る。
第3項:使途の限定:協力金の使途を水源涵養林整備、排水施設・農業用水路維持、生物多様性保全、地下水涵養林基金拠出等に限定し、目的外使用を防ぐ。第26条の2の地下水涵養林整備基金への拠出(第4号)により、第8条の5(地下水涵養)及び第16条の4(代償植林)の納付金との一体運用が可能となる。
v2への発展余地:本条はv1段階では努力義務にとどめるが、運用実績を踏まえ、将来的に義務化(協力金条例の独立化)への発展余地を残す設計である。
運用上の禁止事項(武蔵野マンション事件の法理):努力義務型であっても、納付を理由に届出受理・許可・行政手続を遅延させ、又は不利益に取り扱う運用は、行政指導の限界を超え違法となるおそれがある。寄付金の納付を事実上強制する運用が問題視された判例法理を踏まえ、当該自治体の行政手続条例(行政手続法第32条等と同趣旨)に沿った任意性確保が求められる。納付勧奨は1回の説明にとどめ、不協力の意思が示された後の反復的な勧奨は行わないことが望ましい。あわせて、法的根拠のない公表を社会的制裁として用いない運用を徹底することが必要である。
関連条項:第26条の2(地下水涵養林整備基金)、第28条(適用除外)
第5章 雑則
第27条(委任)
条文
第27条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。
逐条解説
委任規定は条例の運用に必要な技術的・手続的詳細を規則に委ねる一般的授権規定である。規則で定めるべき主な事項として、各種様式、提出書類の具体的記載事項、別表の数値の詳細、経過措置の細則等がある。
実務上の留意点:条例の骨格は議会の議決を要するが、規則は首長限りで改正可能であるため、運用の柔軟性を確保できる。ただし、住民の権利義務に直接関わる事項は条例本文に規定し、規則への白紙委任は避けること。
関連条項:全条
第28条(適用除外)
条文
第28条 この条例は、次に掲げる行為については適用しない。
(1) 建築物の屋根又は屋上に設置する太陽光発電施設(建築物と一体のものに限る。)
(2) 自家消費を目的とする施設であって、出力が別表第1に定める規模未満のもの
(3) 農業者が自己の農業経営に供するために設置する出力10キロワット未満の発電設備
(4) 集落単位の自治会、町内会その他の地縁団体が地域の電力供給の自立化のために設置する出力50キロワット未満の発電設備(売電を主たる目的としないものに限る。)
(5) 国又は地方公共団体が自ら行う土地開発行為
(6) 非常災害のために必要な応急措置として行う行為
(7) その他規則で定める軽微な行為
2 前項各号に掲げる行為については、所有者又は当該地域の住民の自主的な判断に委ねるものとし、町長(市長・知事)は、本条例に基づく許可、届出その他の行政上の関与を求めないものとする。
3 前二項の規定は、所有者又は住民が安全、環境保全その他の事項について町(市・県)に相談し、又は助言を求めることを妨げない。町長(市長・知事)は、当該相談又は助言の求めに応じて、必要な情報提供を行うことができる。
逐条解説
適用除外規定は、条例による過剰規制を防ぐ安全弁である。一定規模未満又は自家消費型・地域自立型の施設については、本条例の規制対象外として、所有者又は地域の自主的判断に委ねる設計を採用する。
本条のスタンス(第2項の趣旨):本条は、当法人又は条例制定主体が小規模分散型再エネを「積極的に推進する」ことを意味するものではない。第2項は、「条例の規制対象外とすることにより、所有者又は地域住民の自主的判断に委ねる」という中立的なスタンスを明確化する規定である。再生可能エネルギーに関する政策的判断は、国及び都道府県のエネルギー政策の枠組みに委ねられるべきものであり、本条例は当該政策的判断には立ち入らない。
第1号〜第7号の整理:第1号で屋根置き型太陽光を除外することにより、住宅・工場における太陽光設置という国のエネルギー政策の枠組みを地域レベルで妨げない構造としている。第2号の自家消費小規模施設の除外も同趣旨である。第3号は農業者保護のための明示的除外であり、農機具置き場・育苗ハウス・農作業小屋等への小型発電設備の設置を、第11条の2(農地保全)の手続から切り離している。これにより、農地を発電所に転換しようとする大規模な第三者の事業と、農業者自身の自立的なエネルギー確保とを区別する。第4号は集落単位の自立電力(コミュニティ・マイクログリッド)を本条例の規制対象外とする規定である。集落自身が運営する小規模分散型電力システムについて、自治会・町内会レベルの自主的取組として位置付ける。第5号は行政主体の行為に係る一般的除外規定である。
第3項:相談・助言の余地:第2項により規制対象外とされた施設についても、所有者又は住民が安全・環境保全等に関し町に相談する道は閉ざさない。町は、相談又は助言の求めに応じて情報提供を行うことができる。本条例は規制対象外施設について「行政の関与を求めない」スタンスをとるが、住民からの自発的な相談機会を排除するものではない。
他法令との関係:本条による適用除外は本条例の規制に係るものであり、他法令(廃棄物処理法、建築基準法、消防法、災害対策基本法等)に基づく行政の関与を排除するものではない。事故・廃棄物・建築・消防・災害時には、これら他法令に基づく行政対応が別途行われる。
実務上の留意点:「自家消費目的」の判定が問題となる場合がある。余剰電力の売電を行っていても、主たる目的が自家消費であれば本号に該当するか否かについて、規則で具体的基準(例:自家消費率50%以上)を定めること。第4号の「売電を主たる目的としない」も同様に、自家消費率の閾値を規則で定める運用が望ましい。
関連条項:第3条第6号(基本理念)、別表第1
第29条(生物多様性維持協定等の推進)
条文
第29条 町長(市長・知事)は、地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律(令和6年法律第18号。以下「地域生物多様性増進法」という。)第11条に規定する連携増進活動実施計画の策定及び主務大臣の認定取得に努めるものとする。
2 町長(市長・知事)は、前項の認定を受けたときは、対象区域内の土地所有者等の全員の合意を得て、地域生物多様性増進法第22条に規定する生物多様性維持協定(以下「維持協定」という。)の締結を推進するものとする。
3 町長(市長・知事)は、第5条第1項各号に掲げる設置禁止区域、第6条第1項各号に掲げる設置抑制区域並びに規則で定める水源涵養機能の高い地域及び農地法第2条第1項に規定する農地のうち地域の保全上重要と認める区域について、優先的に維持協定の締結を働きかけるものとする。
4 町長(市長・知事)は、維持協定の締結及び履行を促進するため、対象となる土地所有者等に対し、必要な情報提供、技術的助言その他の支援を行うことができる。
5 町長(市長・知事)は、地域生物多様性増進法第13条に規定する連携増進活動協議会を必要に応じて組織することができる。
解説
本条は、本条例の参入規制(第3章)及び行政措置(第4章)を補完するものとして、地域生物多様性増進法(令和6年法律第18号)第11条以下の連携増進活動実施計画及び同法第22条以下の維持協定の枠組みを地域に導入することを推進する規定である。
本条例の各条項は、事業者が参入を試みた段階で機能する手続的枠組みとして設計されている。これに対して第29条は、事業者の参入前段階で、土地そのものに「生物多様性の保全義務」という法的拘束を予め設定する枠組みを構成する。両者は相互補完の関係に立つ。
特に重要なのが、地域生物多様性増進法第22条から第26条までに規定される維持協定の仕組みであり、同法第26条に定める承継効である。市町村が地権者と締結した維持協定は、同法に基づく公告等の手続を経た後、当該土地の新たな所有者(相続による取得者及び売買による取得者を含む。)に対しても効力が及び、協定上の生物多様性保全義務は当該土地に付従し、当該取得者は当該義務に拘束される。
重要土地等調査法(令和3年法律第84号)は防衛施設及び国境離島周辺の土地利用を規制対象としているが、内陸部の水源地、農地及び一般森林はその対象外であり、私人による土地取得に対する同法上の直接的な規律が及ばない。本条例第9条の2の土地取引事前届出制度は当該空白を一部補うが、所有権そのものの移転を制限する効果は限定的である。これに対し、生物多様性維持協定は土地に対する物的拘束を生じさせる点で質的に異なり、第9条の2と相互補完の関係に立つ。
第2項の「土地所有者等の全員の合意」は、地域生物多様性増進法第22条第2項に基づく法定要件である。承継効という強力な付随的制限を伴うため、当初の権利者全員の意思を担保することが法律上求められている。
第3項の優先指定方針は、本条例の保全対象(水源・農地・森林)と国法の認定制度を接続するものである。設置禁止区域及び抑制区域として既に指定がなされている範囲については、行政上の整合性を確保するため、維持協定の締結を優先的に進めることが合理的である。「優先的に働きかける」との表現は、限られた行政リソースを重点区域に投入する運用上の優先順位を示す趣旨であり、本条例第5条・第6条の区域指定との整合を確保する目的である。
第5項の連携増進活動協議会は、地域生物多様性増進法第13条に基づく合意形成の任意機関であり、市町村、活動実施者、支援センター、住民、学識経験者及び関係行政機関が構成員となる。本協議会の設置は、多部局にわたる調整が必要な大規模案件において優先的に検討することが望ましい。
実務上の留意点:第1項及び第2項はいずれも努力義務規定であり、市町村に強行的な作為義務を課すものではない。これは、認定及び協定の締結が地権者の同意(第22条第2項により全員合意)を前提とすること並びに行政の能力的制約を考慮したものである。ただし、本条の存在自体が首長及び議会に対する行政指導の根拠となり、住民及び非営利法人等が条例に基づき協議会設置又は協定締結を要請する制度的基盤を提供する。
国法との接続:地域生物多様性増進法第11条の連携増進活動実施計画について主務大臣(環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣)の認定を受けた場合、自然公園法、自然環境保全法、種の保存法、鳥獣保護管理法、外来生物法、森林法及び都市緑地法に基づく許可手続のワンストップ化が認められる(同法第15条〜第21条)。これにより、保全活動の機動性が向上する。
税制上の措置:維持協定の締結区域内の土地については、相続税及び贈与税の評価額の20%を減額する特例措置が令和7年4月から施行されている。これは、地権者にとって協定締結の経済的インセンティブとして機能する。
市場メカニズムとの接続:本法に基づく認定は、企業のネイチャーポジティブ貢献を公的に証明する基盤となり、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)等の開示枠組み及び環境省の自然共生サイト等支援証明書制度とも連動するものである。詳細は本条例に係る政策提言を参照されたい。
関連条項:第5条、第6条、第9条の2、別表第1
附則
附則第1条(施行期日)
条文
附則第1条 この条例は、令和○年○月○日から施行する。ただし、第5条第1項第7号(水源核心区域の指定)、同項第8号(別表第3に定める区域の指定)及び第6条(設置抑制区域の指定)の規定は、公布の日から起算して6月を経過した日から施行する。
逐条解説
施行期日に6か月の猶予期間を設けた区域指定規定は、第7条第2項の手続(公示・住民意見聴取・学識経験者意見聴取)に要する時間を確保するためである。禁止区域のうち法定の指定区域(第5条第1項第1号〜第6号)は条例施行と同時に効力を生じるが、水源核心区域(第7号)及び自治体独自の区域追加(第8号)には適正手続が必要であるため、時間差を設けている。
実務上の留意点:施行までの間に、事業者への周知(パブリックコメント、事業者向け説明会)を十分に行うこと。
関連条項:第5条、第6条、第7条
附則第2条(既存事業の定義)
条文
附則第2条 この附則において「既存事業」とは、この条例の施行の際現に対象施設を設置している事業(施行の日前に着工し、施行後に完成するものを含む。)をいう。
逐条解説
本条は、既存施設に対する経過措置の適用範囲を画する定義規定である。条例施行時点で既に設置されている施設に加え、施行前に着工し施行後に完成する施設も「既存事業」に含めることで、施行直前の駆け込み着工に対しても整合的な経過措置を適用する設計である。
関連条項:附則第3条〜第10条
附則第3条(既存事業の概要届出)
条文
附則第3条 既存事業を営む者は、この条例の施行の日から起算して6月以内に、町長(市長・知事)に対し、規則で定めるところにより、事業概要届出書を提出しなければならない。
2 町長(市長・知事)は、前項の届出があったときは、これを台帳に登録し、その旨を届出者に通知するものとする。
3 町長(市長・知事)は、第1項の届出をしたこと自体を理由として、当該既存事業者に対し不利益な取扱いをしてはならない。
逐条解説
本条は、条例施行時点で稼働している既存施設の所在・規模・事業者を行政が把握するための届出義務である。
第3項:不利益取扱い禁止:既存事業者の届出意欲を確保し、概要届出制度の実効性を高めるための重要規定である。届出をすることで条例上の義務(維持管理計画作成、年次報告、積立金供託等)が発生するが、届出自体を行ったことにより新たな不利益を課すことはしない旨を明示する。これにより、既存事業者が届出を回避するインセンティブを排除する。
実務上の留意点:届出の様式・記載事項は規則で定める。固定資産税台帳・農地法転用許可台帳等との突合により、届出義務違反者を把握する仕組みを併用することが望ましい。
関連条項:附則第5条、附則第7条、附則第8条
附則第4条(物理的基準の適用除外)
条文
附則第4条 既存事業については、第17条の2(離隔距離)、第17条の3(傾斜地における設置制限)及び第17条の4(排水施設及び調整池の設置義務)の規定は、適用しない。
2 前項の規定にかかわらず、既存事業者が次の各号のいずれかに該当する変更を行おうとするときは、当該変更に係る部分について、第17条の2、第17条の3及び第17条の4の規定を適用する。
(1) 発電出力の増加 (2) 事業区域の拡大 (3) 主要設備(パネル又はパワーコンディショナーをいう。)の全面交換
逐条解説
本条は、既存施設に対する物理的基準の遡及適用を回避する規定である。離隔距離・傾斜地制限・排水施設等の物理的基準は、施設の構造そのものに関わるため、既存施設に遡及適用すると事実上の撤去命令となり、財産権(憲法第29条)への過度な制限となる。本条は、こうした遡及適用を構造的に防ぐ。
第2項:実質的な新設に係る変更時の例外:発電出力の増加、事業区域の拡大、主要設備の全面交換は、実質的な新設に近い変更行為であり、当該変更部分について新規基準を適用することは合理性がある。これにより、「既存施設の名目で大規模改修を行い、新規基準を回避する」事態を防ぐ。
関連条項:第17条の2、第17条の3、第17条の4
附則第5条(維持管理計画の作成義務)
条文
附則第5条 既存事業を営む者は、この条例の施行の日から起算して1年以内に、第19条の2の規定に基づく維持管理計画を作成し、町長(市長・知事)に提出しなければならない。
2 前項の維持管理計画には、施設の現状評価(稼働年数、劣化状況、排水状況等)を含めるものとする。
逐条解説
本条は、既存施設に対しても維持管理計画の作成・公表を義務付ける規定である。維持管理計画の作成は「施行日以降の将来の行為」に関する義務であり、過去の設置行為を違法と評価するものではないため、遡及適用には当たらない。
第2項:現状評価の追加:既存施設は新規施設と異なり、建設から相当の年数を経過している場合が多い。劣化状況・排水状況等の現状評価を計画に含めることで、後続の年次報告(附則第6条)と組み合わせて、運転段階のリスクを行政が継続的に把握する基盤となる。
関連条項:第19条、第19条の2、附則第6条
附則第6条(年次報告の開始時期)
条文
附則第6条 既存事業に係る第20条の規定による維持管理報告書の提出は、附則第5条第1項の規定により維持管理計画を提出した年度の翌年度から開始する。
逐条解説
本条は、既存事業に対する年次報告義務の開始時期を定める規定である。維持管理計画の作成(附則第5条)と年次報告(第20条)の発動を時間的に分けることで、既存事業者の事務負担を緩和し、計画作成期間を確保する。
関連条項:第20条、附則第5条
附則第7条(廃棄等費用積立金の経過措置)
条文
附則第7条 既存事業を営む者は、この条例の施行の日から起算して2年以内に、第18条の規定による廃棄等費用積立金の供託又は信託を完了しなければならない。
2 既存事業に係る積立金の額は、次の各号のいずれか低い額とする。
(1) 第18条第2項の規定により算定した額 (2) 対象施設の発電出力1キロワットにつき5,000円を乗じて得た額
3 既存事業者が再エネ特措法に基づく廃棄等費用積立を行っている場合は、当該積立額を前項の額から控除することができる。
4 再エネ特措法に基づく認定の残存期間が5年未満の既存施設については、規則で定めるところにより、按分計算による減額をすることができる。
逐条解説
本条は、既存事業に対する廃棄等費用積立金の供託義務に関する経過措置を定める規定である。
第1項:2年の供託完了期間:本則第18条が「事業着手の日まで」の供託を求めるのに対し、既存事業については施行日から2年以内に供託を完了することとし、現実的な準備期間を確保する。
第2項:減額措置(5,000円/kW下限):本則の1万円/kW下限よりも低い5,000円/kW下限を適用することにより、既存事業者の負担を新規事業者に比して軽減する。本条例の施行前に事業計画が確定し投資判断が完了していた既存事業者に対し、事後的な負担の急激な増大を避けるため、新規事業者と比較して低い下限額を適用する経過措置である。
第3項:FIT積立との控除:本則第5項と同様、二重取りを回避するための控除規定である。
第4項:FIT残存期間が短い施設への按分減額:FIT認定期間の終了が間近な施設については、運転継続期間に応じた按分計算により積立額を減額することができる。これは、施設の経済的価値と積立負担のバランスを図る規定である。
関連条項:第18条
附則第8条(事業承継時の確認)
条文
附則第8条 既存事業について第20条の3の規定による事業承継があったときは、承継人は同条の届出に加え、次の各号に掲げる事項を届出書に記載するものとする。
(1) 施設の現状評価 (2) 維持管理計画の承継又は改定の方針 (3) 廃棄等費用積立金の承継の状況
2 町長(市長・知事)は、前項の届出の内容を確認し、必要に応じて承継人に対し技術的助言を行うことができる。
逐条解説
本条は、既存事業の承継時に追加的な記載事項を求める規定である。既存事業は、資本関係が不透明な法人若しくは実体を伴わない法人等を介した転売があった場合に、責任主体の特定が困難となるリスクが相対的に大きいと想定されるため、承継時に施設の現状評価・維持管理体制・積立金状況を改めて確認する仕組みを設ける。
第2項:技術的助言:承継人に対する技術的助言は強制ではなく支援であり、自治体と承継人の協力的関係を構築する規定である。
関連条項:第20条の3、第20条の4
附則第9条(FIT満了時の事業継続届出)
条文
附則第9条 既存事業者が再エネ特措法に基づく認定の期間の満了後も対象事業を継続しようとするときは、当該満了の日の90日前までに、町長(市長・知事)に対し、規則で定めるところにより、事業継続届出書を提出しなければならない。
2 事業継続届出書には、次の各号に掲げる事項を記載するものとする。
(1) 施設の安全性に関する診断結果 (2) 継続後の維持管理体制 (3) 第18条の規定による廃棄等費用積立金の充足状況 (4) 継続予定期間及び最終的な撤去見通し
3 第1項の事業継続届出は届出制であり、届出の不受理によって事業の継続自体を禁止するものではない。
逐条解説
本条は、再エネ特措法に基づく認定(FIT/FIP)の満了後も事業を継続しようとする既存事業者に対して、事業継続届出を求める規定である。
FIT満了時の確認機会としての位置付け:FIT認定期間(事業用太陽光は20年)の終了を契機として、施設の安全性・維持管理体制・積立金充足状況を改めて確認する。FIT終了後は売電収入が大幅に減少するため、維持管理体制の維持が困難となるリスクが高まる。本条はこの転換期に行政が状況を把握する機会を確保する。
第3項:届出制の明示:本条は届出制であり、許可制ではない。届出を受理しないことによって事業継続を禁止することはなく、財産権・営業の自由への過度な制限を回避する設計である。
関連条項:第20条、第18条
附則第10条(管理不全への対応)
条文
附則第10条 既存事業であっても、第20条の9第1項各号に掲げる管理不全の状態にあると認められるときは、第20条の9及び第20条の10の規定を適用する。
逐条解説
本条は、管理不全状態にある既存施設に対する行政の介入権限を確認する規定である。管理不全への介入は「公共安全の維持」に関する警察権的規制であり、既存施設に対しても適用されることが法的に確立している(建築基準法における危険建築物への措置、空家等対策の推進に関する特別措置法等を参照)。
関連条項:第20条の9、第20条の10
附則第11条(検討規定)
条文
附則第11条 町長(市長・知事)は、この規定の施行後3年を目途として、その施行状況、再生可能エネルギー事業をめぐる社会経済情勢及び関係法令の改正状況を検証し、事業の承継、廃止、撤去費用の確保その他必要な事項について検討を加え、その結果を公表するとともに、必要があると認めるときは、当該結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
逐条解説
本条は、附則を含む条例全体の施行状況について、3年を目途に検証し、結果の公表と必要な措置を求める検討規定である。エネルギー政策・環境政策の変化、判例の蓄積、国法の改正等に対応するための自己修正メカニズムであり、再エネ技術の進化(ペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力等)にも対応する。
実務上の留意点:見直しの際は、条例施行後の紛争事例、通報実績、事業者の遵守状況、附則の規定による既存事業からの届出状況等のデータを蓄積しておくことが有効である。
次期改訂に向けた検討の視点:承継時における周辺地域及び景観・生活環境影響地域の住民への説明義務、廃止段階における撤去費用積立金の履行状況の住民への開示、事業者又は代表者若しくは事業者の実質的な支配関係に重要な変更があった場合の住民説明、区域外・隣接自治体住民への通知、累積的影響(複数風車又は既存施設との合算影響)その他の論点は、施行後の運用状況と関係法令の改正動向を踏まえて検討する。
関連条項:全条
附則第12条(改正規定の適用関係) ※新設
条文
附則第12条 第11条第4項から第6項まで、第15条、第15条の2、第15条の3及び第19条の3の改正規定は、この改正条例の施行日以後に事業計画書を提出する事業について適用する。
2 施行日前に事業計画書を提出した事業について、施行日以後に、事業区域の拡大、対象施設の種類、基数、出力若しくは主要な構造の変更、生活環境への影響を増加させるおそれのある運転方法の変更その他規則で定める重要な変更を行う場合は、当該変更に係る範囲について、前項に掲げる改正後の規定を適用する。この場合における第11条第4項から第6項までの適用については、同条第4項中「事業に着手する前その他対象施設又はこれに伴う工事による影響が生ずる前」とあるのは、「当該重要な変更による影響が生ずる前」と読み替えるものとする。
3 改正後の第23条の規定は、施行日以後に行おうとする公表について適用する。
4 第20条の2の2、第21条第2項及び第22条第3項から第8項までの改正規定は、施行日前に設置された対象施設についても、施行日以後に生じ、又は継続する影響について適用する。
5 町長(市長・知事)は、前項の施設に対して初めて測定、調査、報告又は低減措置を求めるときは、当該施設の設置時期、既存の測定資料の有無その他の事情を考慮し、事業者に相当な準備期間を設けるものとする。ただし、既存の第22条第2項の緊急命令の要件に該当する場合は、この限りでない。
逐条解説
本条は、改正条例の適用関係を切り分ける経過措置である。第1項で参入段階の手続保障(第11条第4項〜第6項、第15条系列、第19条の3)を将来の事業に限定適用し、既存事業への遡及適用批判を回避する。第2項で施行後の重要変更については前項に掲げる改正規定を適用する(「改正後の規定」の広い読みを避け、第1項の限定範囲に接続する)。既存稼働施設に「稼働開始前」の測定はできないため、第11条第4項の文言を「当該重要な変更による影響が生ずる前」と読み替える。第3項で第23条の氏名公表手続の経過適用を明示する(施設の設置時期ではなく公表決定時の手続として整理)。第4項で稼働起因影響の調査ループと命令ルートを既存施設にも適用し、既存施設の継続的影響を放置しない構造とする。第5項で既存施設への配慮として準備期間を義務化する(低減措置も対象に含め、緊急命令要件は妨げない)。
第4項の項番号引用:本条第4項の「第22条第3項から第8項まで」は、第22条統合後全文(命令、事前手続、聴聞、緊急例外を含む関連項)を過不足なく引用したものである。
関連条項:第11条、第15条〜第15条の3、第19条の3、第20条の2の2、第21条〜第23条
別表
別表第1(対象施設の出力規模・面積基準)
| 施設の種類 | 出力基準 | 面積基準 |
|---|---|---|
| 太陽光発電施設 | 50kW以上 | 1,000㎡以上 |
| 風力発電施設 | 20kW以上 | ―(個別判断) |
| 水力発電施設 | 200kW以上 | ― |
| バイオマス発電施設 | 300kW以上 | ― |
| 地熱発電施設 | 300kW以上 | ― |
| 蓄電施設 | ― | 1,000㎡以上 |
| その他(規則で定める) | 規則で定める | 規則で定める |
| 土地開発行為(施設種別を問わず) | ― | 3,000㎡以上 |
解説
出力基準は岡山県条例(50kW以上)及び山形県条例(500kW以上)を参考にしつつ、市町村条例として低圧太陽光を含む50kW以上を標準としている。県条例として運用する場合は500kW以上への引上げを検討してよい。面積基準の1,000㎡は兵庫県条例の基準を参考としている。最下段の「土地開発行為3,000㎡以上」は施設種別を問わない汎用規定であり、条例の「土地開発行為全般」としての性格を担保する。
自治体は地域の実情に応じてこれらの数値を調整すること。
別表第2(各種距離要件)
| 基準対象 | 太陽光発電施設 | 風力発電施設 |
|---|---|---|
| 住居から事業区域境界まで | 100m以上 | 事業区域境界から最寄りの住居まで、風車のブレード先端までの高さ(全高)の2倍以上かつ500m以上 |
| 河川・水路から事業区域境界まで | 30m以上 | 50m以上 |
| 文化財・史跡から事業区域境界まで | 300m以上 | 500m以上 |
| 学校・病院・福祉施設から事業区域境界まで | 200m以上 | 1,000m以上 |
| 近隣関係者の範囲(第2条第6号) | 事業区域境界から300m以内 | 事業区域境界から1,000m以内 |
解説
距離要件は各地の条例や環境省ガイドライン、諸外国の事例を参考に設定した標準値である。風力の住居距離は、WHO欧州地域事務局のガイダンスやドイツの州法(ブレード先端高の2倍)を参考にしている。自治体は地形・風況・住居密度等の実情に応じて調整すること。
別表第3(禁止区域・抑制区域の指定基準)
禁止区域追加指定の基準(第5条第1項第8号)
規則で追加指定し得る禁止区域は、次のいずれかに該当し、かつ、国法又は都道府県条例において高度の公益的保護がなされている区域に限る。
- 地すべり防止区域(地すべり等防止法第3条)
- 砂防指定地(砂防法第2条)のうち、特に土砂災害の危険性が高い区域
- 都道府県自然環境保全地域の特別地区
抑制区域における許可判断の基準(第6条第3項)
町長(市長・知事)は、設置抑制区域内における許可の判断に当たり、次に掲げる事項を総合的に考慮するものとする。
- 土砂災害・水害の発生リスクの程度
- 周辺景観への影響の程度
- 水源涵養機能への影響の程度
- 希少野生動植物の生息・生育への影響の程度
- 住民説明会及び見解書を通じた合意形成の状況
- 事業者が講ずる環境保全措置の内容及び実効性
- 事業の公益性(地域のエネルギー自給への貢献度等)
解説
禁止区域の追加は法的根拠の厚い区域に限定し、恣意的な拡大を防止している。抑制区域の許可判断基準は、行政裁量の判断過程を透明化し、不許可処分が訴訟で争われた場合に裁判所の審査に耐え得る構造としている。第7号で「事業の公益性」を考慮事項に含めることで、一方的な規制ではなく、再エネ推進と地域保全のバランスを図る条例であることを示している。
総括:本条例の構造的特徴
本条例は、第1条の目的規定に示すとおり「不適切な事業の参入を未然に防止し、地域社会の安全及び環境の保全に資する適正な事業のみが実施される環境を整備すること」を基本理念とする。事業の参入段階から、計画策定・住民協議・施工・運転・廃止に至る各段階で、適正性を確保するための義務を段階的に課す設計を採用している。
各段階における主な手続(条項対応表)
事業者が本条例の適用される地域で対象事業を実施する場合に求められる主な手続を、参入段階・運転段階・出口段階の3段階に分けて整理すると次のとおりである。
A. 参入段階(事業着手まで)
| 段階 | 手続・義務 | 主な条項 |
|---|---|---|
| 土地取引段階 | 禁止・抑制区域内での土地取引の事前届出(水源含有確認を含む) | 第9条の2 |
| 計画立案段階 | ゾーニング適合確認(禁止区域・抑制区域) | 第5条・第6条 |
| 環境調査段階 | 環境影響調査・事前ベースライン測定・四季を通じた生物多様性調査 | 第11条・第12条 |
| 住民協議段階 | 住民説明会2回以上・意見書受付・見解書の公表・熟議期間・手続確認者 | 第13条〜第15条の3 |
| 農地転用段階 | 営農実績・継続計画・単収報告等の提出 | 第11条の2 |
| 物理的基準の遵守 | 離隔距離・傾斜地制限・排水施設の設置 | 第17条の2〜第17条の4 |
| 許認可・着工段階 | 施設賠償責任保険の加入届出、代償植林計画の提出 | 第16条の2・第16条の4 |
| 財務的担保設定段階 | 廃棄等費用積立金の供託・信託(1kWあたり1万円下限) | 第18条 |
| 履行担保確保段階 | 保険・保証・代表者連帯保証等の選択制 | 第18条の2 |
B. 運転段階(事業期間中)
| 段階 | 手続・義務 | 主な条項 |
|---|---|---|
| 維持管理基準の遵守 | 安全状態の維持、排水機能の維持、植栽活着率70%等 | 第19条 |
| 維持管理計画の公表 | 月次・年次点検、災害時応急、撤去計画の公表 | 第19条の2 |
| 年次報告 | 維持管理報告書の提出(点検結果、出力低下、植生回復、積立状況) | 第20条 |
| 事故報告 | 損壊・倒壊・土砂流出時の即時報告と応急措置 | 第20条の2 |
| 稼働起因影響 | 騒音・風車の影・電波障害等の調査・低減措置・独立再検証 | 第20条の2の2 |
| 条件付き採用の履行 | 条件成就後の対策履行・変更撤回手続 | 第19条の3 |
| 災害時対応 | 自然災害時の応急措置・行政への届出 | 第16条の3 |
| 地下水涵養義務 | 大量採取者の涵養計画履行 | 第8条の5 |
| 事業承継時の届出 | 譲渡・相続・合併・分割時の30日以内届出(資力情報を含む) | 第20条の3〜第20条の6 |
C. 出口段階(廃止・撤去)
| 段階 | 手続・義務 | 主な条項 |
|---|---|---|
| 撤去計画の事前提出 | 廃止180日前の撤去計画書 | 第18条の3 |
| 廃止届出 | 廃止90日前の廃止届出書(撤去計画詳細・原状回復計画) | 第20条の7 |
| 撤去完了検査 | 撤去完了から30日以内の届出と現地検査・追加措置命令 | 第20条の8 |
| 管理不全への対応 | 1年以上放置・破損・土砂流出時の勧告・公表・命令 | 第20条の9 |
| 事業者不明時 | 略式代執行(公告3か月後の代執行と費用回収) | 第20条の10 |
| 経産省通報 | 条例違反の経産省への通報(FIT/FIP認定連動) | 第24条 |
適正に事業を行う事業者にとっては、これらの手続を経ることが適法性の公的な証跡となる。他方、いずれかの要件を充足できない事業者は許可を得られず、条例適用区域での事業の実施ができない。
D. 地域への還元
参入から出口までの3段階に加えて、地域環境保全への還元の仕組みとして、第26条の3の地域環境保全協力金(事業区域5,000㎡以上の事業者の努力義務)が、水源涵養林整備、排水施設・農業用水路維持、生物多様性保全等の財源となる。協力金は第26条の2の地下水涵養林整備基金との連動も予定する。
自然資本の循環原則(第8条の5・第16条の4)
本条例の根幹思想の一つが「自然資本の循環原則」である。地下水を採取する者には森林の涵養を担わせ(第8条の5)、森林を伐採する者には伐採面積を上回る代償植林を求める(第16条の4)。両条はいずれも広葉樹を主体とする植林を中心に据え、納付金は地下水涵養林整備基金(第26条の2)に集約される。
代償植林を1.5倍に設定することで、採取量より多く回復させる循環が生まれ、長期的には地域の森林・地下水は緩やかに再生する方向に向かう。条例が単なる「禁止の法」ではなく「保全と再生の法」として機能する設計としている。
地下水の公共性(第8条の2)
前掲水循環基本法の理念(国民共有の貴重な財産)を条例レベルで宣言的に受け止めた規定である(熊本県地下水保全条例の「公共水」概念に倣う)。これにより、飲料メーカー等による大量採取・域外搬出に対する規律(第8条の3〜第8条の6)の法的基盤となる。
土地取得段階の早期把握(第9条の2)
前記の各段階における手続は事業計画段階を中心に設計されているが、その前段階である「土地取引段階」にも仕組みを設けている。第9条の2の土地取引事前届出制度により、禁止区域・抑制区域内の土地について届出義務者による権利取得が行われる動きを30日前に把握し、出資者・株主情報まで含めて開示を求める。届出情報の収集により、権利取得者の属性及び利用目的を行政が適時に把握し、水源・農地・森林の保全に資する適正な管理を確保する。21道府県の水源地域保全条例で運用実績のある仕組みである。
事前型保全:生物多様性維持協定による継続的保全(第29条)
第9条の2の届出制度が「土地取得の動きを把握する」仕組みであるのに対し、第29条は「土地そのものに保全義務を予め設定する」仕組みである。地域生物多様性増進法第22条に基づき市町村が地権者と維持協定を締結し、同法に基づく公告等の手続を経ると、同法第26条に基づき、その効力は将来の土地取得者(相続人・売買による新所有者を含む。)にも承継される。
この承継効により、新たな取得者が当該土地を取得した場合であっても、協定上の生物多様性保全義務は土地に付従し続け、新所有者は当該義務に拘束される。重要土地等調査法(令和3年法律第84号)が防衛施設・国境離島周辺に限定されるため、内陸部の水源地・農地・一般森林に対する直接的な規律が及ばないという制度的空白を埋める意義を有する。
本条例における各種参入規制(第3章)が「事業者が参入を試みた段階」で機能する手続的枠組みであるのに対し、第29条は「事業者が参入する前段階」で土地そのものに法的拘束を設定する枠組みとして位置付けられる。両者の組合せにより、本条例の保全機能は時間軸において重層化する。
農地保全の特別要件(第11条の2)
食料自給率38%の国において、農地は将来世代に引き継ぐべき公共財である。第11条の2では、農地への対象施設設置(営農型太陽光等)に対し、過去3年の営農実績、施設後の営農継続計画、平均単収との比較、毎年度の営農報告を義務付けている。2年以上の単収低下等が確認された場合には、農業委員会、都道府県知事その他関係行政機関への情報提供及び本条例固有の義務違反に係る勧告を行う構造としている。これは2025年12月23日関係閣僚会議決定及び2026年4月農林水産省制度見直し案と並走する設計であり、市町村レベルで国の方針を補強する。
手続・行政措置・国法連動の三層構造
本条例の各手続を行政上の機能で整理すると、次の三層に分類される。
第一層:手続的規制(第3章) 事前協議90日前・住民説明会2回以上・意見書受付・見解書提出義務というレベル2プロセスにより、事業者に実質的な住民対話を促す。住民の同意は要しないが、形だけの説明では足りない構造である。土地取引段階の届出(第9条の2)と農地保全要件(第11条の2)も、この層に位置付けられる。
第二層:行政上の措置(第4章) 勧告→命令→氏名公表という段階的エスカレーションにより、条例違反に対する行政的な対応を行う。
第三層:国法連動(第24条) 条例違反を経済産業省に通報し、FIT/FIP交付金の一時停止(積立命令)及び認定取消に連動させる。第24条の通報により、条例上の措置と国法上の措置が連動し、多層的な実効性確保が図られる。
本条例の二面性:「排除」と「促進」
本条例は再生可能エネルギーそのものを敵視するものではない。守りたいのは地域の環境と住民の安全であり、その目的に照らして適正な事業のみが地域に参入できる仕組みとして機能するものである。
| 本条例の扱い | |
|---|---|
| 地域環境への負荷が大きい大規模集中開発(売電を主たる目的とする大規模太陽光、山頂風車、農地転用型発電所、地下水の大量域外販売) | 本条例の各手続により参入を制限 |
| 集落自立型の小規模分散(屋根ソーラー、マイクロ水力、自家消費型小型風車、農業者の自家発電、集落マイクログリッド、家庭用井戸、農業灌漑) | 第28条・第8条の3第2項により本条例の規制対象外 |
本条例の法的基盤(国法・判例・行政方針との対応)
本条例の各規定は、次の国の法律・判例・行政方針を踏まえた設計としている。
- 汎用土地開発条例の構造:東京高判平成30年10月3日(富士河口湖町事件)で条例に基づく不同意処分の適法性が肯定された事例がある
- 徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日・刑集29巻8号489頁):条例と国法の抵触判断枠組み(趣旨・目的・内容及び効果の比較)
- ため池条例事件(最大判昭和38年6月26日・刑集17巻5号521頁):災害防止目的の条例による財産権制限を認めた判例。一方で、同判決を「条例による財産権制限を一般的に認めた」と読む見方と、「危険な使用行為はもともと財産権の保護領域外であった」とする慎重説が併存する。本ひな型は同判決を無限定の根拠とせず、規制ごとに目的・手段の比例性を個別に設計している
- 土地基本法第12条第1項:国及び地方公共団体が適正かつ合理的な土地の利用及び管理に関する計画を策定する責務——本条例の区域指定・手続規律の政策的根拠
- 改正再エネ特措法(2024年4月):住民説明会の認定要件化と並走
- 地域生物多様性増進法(2024年公布、2025年4月1日施行):自然共生サイト・OECM及び同法に基づく認定区域を、原則として第6条の設置抑制区域に位置付け、生物多様性への影響回避・最小化を求める構造としている
- 水循環基本法(平成26年制定、令和3年改正):地下水の公共性宣言と整合
- 重要土地等調査法(2022年9月):補完的な土地取得監視として接続
- メガソーラー対策パッケージ(2025年12月23日関係閣僚会議決定):食料安全保障・環境アセス閾値引下げ検討と並走
- 農山漁村再エネ法・農地法改正(2026年4月見直し):農地保全要件と並走
- 地下水関係閣僚会議等の検討:地下水の適正な保全と利用の方向性と並走
- FIT/FIP交付金の運用:2025年度の交付金一時停止57件・認定取消55件(経産省2026年4月公表)と接続し、条例違反を第24条の通報制度により国制度の運用に接続する
本条例は、一律規制ではなく地域特性に応じた手続審査を基本とし、事業の適正性を事前段階で確認する枠組みを整えるものである。
地域カスタマイズ・チェックリスト
本ひな型を地域に導入する際に、法務担当者・顧問弁護士と確認すべき主要項目を一覧にしたものである。
1. 都道府県条例との整合
- 管轄都道府県に再エネ関連条例(環境保全・水源保全・農地保全)があるか
- 都道府県条例の規模基準・禁止区域・手続要件と本ひな型の基準が競合しないか
- 都道府県条例に市町村条例への適用除外規定があるか(第4条の2第3項)
- 県条例の規制水準が最高限度として設定されていないか
2. 区域指定の調整
- 第5条(禁止区域)の各号が地域に該当する法指定区域を網羅しているか
- 第6条(抑制区域)の離隔距離(別表第2)が地域の集落配置に適合するか
- 第5条第7号の水源核心区域の範囲(300m/100m)が地域の水利用実態に適合するか
- 自然共生サイト・OECMの認定区域が地域に存在するか(第6条第9号)
3. 数値基準の調整
- 第2条の対象出力規模(別表第1の下限値)が地域の実情に適合するか
- 第17条の4の造成面積閾値(3,000㎡)が適切か
- 第18条の廃棄等費用積立金の算定基準(1万円/kW下限)が地域の撤去費用相場に合うか
- 第26条の3の協力金対象面積(5,000㎡以上)が適切か
- 第8条の6の域外搬出発動基準(1日10㎥以上)が地域の地下水賦存量に見合うか
4. 手続的要件の確認
- 第9条の事前協議期限(90日前)が行政の処理能力に見合うか
- 第13条の住民説明会要件が改正再エネ特措法の要件と整合するか
- 規則で定める事項(様式・基準・手続)の一覧を作成したか
5. 実効性確保の確認
- 第24条の経産省通報の実務チャネル(連絡先・書式)を確認したか
- 第18条の2の履行担保手段として、地域で利用可能な保険・保証商品を調査したか
- 第25条の過料処分の手続(弁明の機会付与、処分書の様式)を整備する準備があるか
- 第7条第2項の区域指定手続に要する期間(公示・意見聴取・学識意見)を見積もったか
6. 既存施設への経過措置
- 附則第2条〜第10条の経過措置が地域の既存施設の実態に適合するか
- 既存施設への届出要件(附則第3条)の周知計画があるか
更新履歴
v2.1.1 更新内容(2026-07-25):2026年7月17日の環境影響評価法施行令改正の閣議決定を反映。太陽光発電事業の第一種・第二種事業の新たな規模要件、2027年4月1日の施行予定日および経過措置を逐条解説に追記。
v2.1 更新内容(2026-07-14):法務レビューを踏まえ、本文とページ表示の版番号を統一。景観・生活環境影響地域、事前ベースライン測定、熟議期間、手続確認者、条件付き採用事項の履行確保及び変更手続、稼働起因影響の調査及び措置並びに独立再検証、命令前手続の自己完結型整備並びに既存・進行中事業への経過措置に係る規定を追加・整備。
v1.2 更新内容(2026-05-23):第3次法務レビューに基づく最終調整を適用。
- 附則第1条:施行猶予に第5条第1項第7号(水源核心区域)を追加(第7条・解説との整合)
- 総括「法的基盤」:地域生物多様性増進法の記述を抑制区域設計に修正
- 第6条第9号解説:自然共生サイト認定数を固定数値から動的表現に変更
- 略称統一:「生物多様性増進活動促進法」→「地域生物多様性増進法」に全文統一
- 第3条第5号解説:「原状回復保証金」→「廃棄等費用積立金」に用語修正
- 第29条第3項:「別表第1に定める」→「規則で定める」に参照先修正
- 第18条の2解説:第18条を補完する担保であり規則・許可条件で調整可能と追記
- 第12条解説:四季調査の軽減措置の余地を追記(比例原則への備え)
- 第20条の10解説:「強化版規定としての位置付け」注記を追加
v1.1 更新内容(2026-05-23):法務リスクチェックに基づく以下の修正を適用。
- 第11条の2:農地法上の権限分配を明確化(通報・連携型に修正)
- 第5条:旧第5号・第6号(自然共生サイト・OECM)を禁止区域から削除→第6条第9号の抑制区域に一本化
- 第5条第7号(旧第9号):水源核心区域の定義限定(取水点・湧水点周辺)、第6条第3号に集水域を抑制区域化
- 第5条旧第10号(水源涵養保安林):第2号保安林と重複のため削除
- 第7条:区域指定手続を概念ベースに修正(自動指定と独自指定の衝突解消)
- 第18条の2:代表者連帯保証の一律義務化→履行担保手段の選択制に変更
- 第18条の3:担保行使文言を保険・保証実務に合わせて修正、第20条の7との接続規定追加
- 第4条の2第2項:県条例との競合時の適用関係を「趣旨に反しない範囲」に修正
- 第9条の2・第10条・第8条の3:株主・出資者情報を議決権10%以上保有者に統一
- 第9条の2第4項:補正手続の明確化(14日以上の期間、書面による申出)
- 第8条の6:域外搬出の発動基準を数量化(1日10㎥以上)
- 第17条の4第2号:流出係数0.9→ピーク流出量ベースの調整池設計に変更
- 第18条:用語を「廃棄等費用積立金」に統一(「保証金」混在を解消)
- 第20条の10:略式代執行の探索手続具体化・議会報告努力義務追加
- 第24条:経産省通報の文言を「認定基準に関わると認められるとき」に修正
- 第25条:過料対象に第8条の3・第8条の6・第18条の2違反を追加
- 第26条の3:協力金の対価性不存在・許可判断との非連動を明記
- 第29条:承継効の条番号を第24条→第26条に修正(環境省資料に基づく)
- 附則第4条第2項:適用除外文言を明確化(新基準適用の直接規定に修正)
- 末尾に「地域カスタマイズ・チェックリスト」を追加
ご利用にあたって
このひな型は「完成条例」ではなく「たたき台」です。先行条例・判例・国の制度設計を踏まえた構造設計図としてお使いください。
各自治体の地理的条件、既存の条例体系、議会構成、住民感情は千差万別です。採用に際しては、必ず法務担当者・顧問弁護士と協議し、議会の意見を踏まえた上で、地域に合った形に仕立て直してください。特に別表第1〜第3の数値(出力規模、距離、抑制区域の指定基準)は、地域の実情に応じて調整が必要です。
【重要】採用前に、管轄する都道府県の既存条例(環境保全・再エネ規制・水源保全・農地保全)との重複・抵触関係を法務担当者と必ず確認してください。特に規模基準・禁止区域・手続要件について、県条例より緩い基準となっていないかの点検が必須です。
編集方針:本資料は、地域における大規模再生可能エネルギー開発と環境保全・防災・住民合意形成のあり方を検討するため、公開されている行政資料、議会資料、判例、環境影響評価資料、報道資料等をもとに作成したものです。特定の事業者、行政機関、団体または個人の違法性・故意・過失を断定するものではなく、制度設計上の課題および地域自治の観点から必要な論点を整理することを目的としています。
免責事項:本ひな型及び逐条解説は、公開情報や先行条例をもとに一般的な構造案を示すものであり、特定の自治体・事業・紛争に対する個別の法的助言ではありません。利用の結果について、当財団は、故意又は重過失がある場合を除き、法令上認められる範囲で責任を負いかねます。第18条の2の履行担保条項を含む各規定の導入に際しては、自治体の実情に応じた法務審査を経ること。
ご相談・ご協力のお願い
採用を検討される自治体・議員・住民団体の方からのご相談には、できる限り対応いたします。先行採用事例の共有や専門家のご紹介につきましては、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
採用事例の共有にご協力いただける場合は、ご連絡ください。当財団のウェブサイトで採用例として紹介させていただきます(事前承諾のうえ)。
ライセンス
本ひな型は、出典(一般財団法人 地球防衛群)を明記のうえ、自由に利用・改変・再配布いただけます。